白い菫が紫色に染まる時
【2017年 春 菫 東京】~新たな人生と安らぎ~
【2017年 春 菫 東京】

それから、一年経って私と蓮くんは無事に就職先も決まり、大学を卒業して、あのアパートからお互いの職場に近いマンションの一室に引っ越した。
そして、そのタイミングで籍も役所に入れに行った。
けれど、二人で式は挙げないことに決めた。

第一に私の地元関係の人たちと連絡を絶っていること。
第二に、そこにお金をかける必要はないということだった。

ただ、蓮くんの家族には一度報告に行った。
こんな形で、ずっと行ってみたいと思っていた五島列島に訪れることにはなると思っていなかったけれど。
かなり緊張していたけれど、蓮くんの家族の方々は優しく受け入れてくれた。

彼の父親は、昔ながらの人で「仕事は辞めて家庭に入るのか?」「蓮を支えられるのか?」などそういう質問をしてきたが、そこは蓮くんが上手く交わしてくれたし、蓮くんの弟と母親は場を和ませてくれたので、答えを濁して乗り切ることができた。
私は彼の父親に私の父親を重ねてしまった。
それほど、放たれる雰囲気が似ていたのだ。嫌なことを思い出す。

蓮くんは、過去に父親の言葉から逃げてきたと言っていたけれど、蓮くんが家族に交じって話している様子を見ると、ただ普通の仲睦まじい親子のように見える。
彼はすごい。蓮くんが実は心の内でどう思っているかなんて、きっと相手は気づいていない。
嫌なことがあっても、それをあからさまに表に出さない。

私とは大違いだった。

その日の夜は、眠る準備をしている時、蓮くんには謝られた。
父親がごめんと・・・・。

「今日、父さんに言われたこと気にしなくていいから」
「うん、全然大丈夫。気にしてないから」

蓮くんから父親のことは聞いていたし、多少あのようなことを言われるだろうと覚悟はしていた。

「父さん、僕が結婚すると聞いて、大喜びしてたよ。これでお前も一人前の男だなって。これでもう、とやかく干渉されたりすることはなくなるかな。だいぶ、気が楽になる」
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