白い菫が紫色に染まる時
そう言った彼は長年溜まっていたストレスから解放されたかのように、ぐっすり眠りについた。
私も五島列島まで来る長旅の疲れがどっと溜まっていたのか、後を追うように気が付いたら瞼が閉じていた。

東京に戻るまでの、何日か蓮くんに案内してもらい、五島列島を観光した。
自然が多く、綺麗な海はどこまでも広がっていて、昼間外に出ている人は少なく、歩いても歩いても長閑な場所だった。
同じ田舎でも私の知っている場所とは全然違かった。

緊張したのは、蓮くんの父親に質問攻めされた初日だけで、それ以降はだいぶ私の心も五島の海のように凪いでいた。
後半はほとんど旅行気分だったかもしれない。
よくよく考えると蓮くんと遠出するのは初めてだったが、そんなことを感じないほどに、安定感があった。

そして、帰宅後、蓮くんから小さな白い箱を差し出された。
今の時代、仕事場では指輪をつけない人もいるし、婚約指輪はいらないと二人で決めたのだが、蓮くんは、帰った時に母親の婚約指輪を渡されたらしい。
紫花家では代々子供が結婚するときに受け継がせていたようだ。

「迷惑だったら、ごめん。でも、母さんに返すわけにはいかないし、、貰ってくれると助かる」

シンプルなデザインの指輪だった。
切実そうな彼の願いを断る理由もなかったので、私は彼から指輪を貰って仕事や家事以外の時は付けることにした。

それと、私たちは共同生活をするうえで、家事の分担について相談した。
週七日をどうするか。
朝ご飯はじゃんけんに負けた蓮くんが四日間、私が三日間担当することになった。
夜ご飯は先に家に帰ってきた人が作る。夕飯を外で食べる時は必ず連絡する。
掃除、洗濯は私が四日間、蓮くんが三日間担当になった。
担当に縛られすぎず、臨機応変に気づいたことはやっていく。
自分の仕事が忙しく、厳しい時は遠慮せずに報告する。
そして、不満があったら必ずため込まずに、相談することが決まりになった。

仕事はお互いに一年目の時は大変で、仕事量も多く、疲れも溜まったが、家に帰って、蓮くんと、ご飯を食べながら喋れる時間があると思うと不思議と頑張れた。
それが、いつの間にか癒しの時間になり、夜に飲み会などが入るとショックを受けている自分がいた。
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