白い菫が紫色に染まる時
そして、卒業と同時に結婚してから一年が経った。
私はある女性漫画家の担当編集をしている。
その先生はかなりのベテランなので、あえて新人の私が学べるようにと配属されたのだろう。
配属された時は、緊張していたが物腰の柔らかい先生ですぐに打ち解けることができた。
そんな名のある先生の最新作が発売されるということで、私だけでなく出版社全体が力を入れており、私は営業の方に本屋と連携したイベントの件で打ち合わせをしようと、営業部へ向かった。

「あの、飯塚先生の新作のキャンペーンの件で、担当の方います?」
「あ、はいはい。私です」

営業の人が奥の机からこちらに小走りで近づいてきた。

「ん?」

あれ、もしかして。

「陽翔?」
「え、菫?」

感動の再会かと思いきや、二人とも驚きのあまり固まってしまった。
しかし、お互いに今は仕事中で時間がないので、その場では仕事の要件を含めて、少ししか話をすることができなかった。
陽翔は就活浪人をしたようで、正確には私の一つ下の代らしい。
だから、同じ会社にいることを今日まで気づかなかったのだ。

そして、また時間がある時にゆっくりと言って別れた。

その場で色々と自分たちのことを話そうと思えば話せたのだろうただ、お互いに動揺して、仕事の話でその場を紛らわせることしかできなかったのだ。
その日の夜に仕事を終えて帰ろうとしたとき、私の部署に陽翔がやって来るのが見えた。

「お、菫。今帰り?」
「うん。今日は終わりだけど・・・・」
「じゃあ、飲みにいかね?話したいことというか聞きたいこと沢山あんだよ」

私は突然連絡の取れなくなった幼馴染のことを、彼がどう思っているのか内心怖かった。

「うん。わかった。じゃあ、ちょっと連絡入れてくるから待ってて」

私は廊下に出て、蓮くんに今日は仲の良い友人に偶然出会ってご飯に行くから帰るのが遅くなると電話した。
そして、二人で駅前の居酒屋に入った。
まず一杯目のビールを飲んで最初に出た話題は予想していたことだった。

「お前、何で急に連絡付かなくなったんだよ。俺ら、めちゃくちゃ心配したんだぜ」
「ごめん、ごめん。携帯壊しちゃって、それで全部データなくなって・・・」
「なんだよ、それなら一回こっち帰ってこいよな。俺なんか、長期休暇は毎回実家に帰ってたぞ」

本当は帰りたくなかっただけなんて口が裂けても言えない。
心配をかけているだろうとは思っていたけれど、面と向かって言われると罪悪感が湧いてくる。

「でも、正直、今日誘われたとき、もっと怒られると思ってた」
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