白い菫が紫色に染まる時
「いや、怒ってるよ。怒ってるけどさ・・・、やっぱり久しぶりに会って話せる喜びのほうが大きいんだよ。白澄なんてな、もう一生会えないかもとか言って、俺より心配してたからな。さすがにそれは、大袈裟だとは思ったけど。まあ、白澄の連絡先教えるから、後で連絡しておけよ」
「うん。わかった・・・・・」

私は久しぶりに聞いた名前に一瞬ドキッとしたけれど、それを悟られないように誤魔化し、運ばれてきた唐揚げや枝豆を次々に食べた。

「お前とこうやって、東京のど真ん中で仕事帰りに酒飲む日が来るとはな。俺たち、大人になったよな」
「そうだね。でも、陽翔は全然変わってないよ。少し、髪型が変わっただけ??」

高校生時代は、髪の毛など寝起きの状態で登校するのが常だったけれど、今はきっちり固められて身だしなみもしっかりしている。

「そう言う、菫だってさっきから枝豆を無心になって食べてて・・・。食い意地張ってるとこ変わってないよな」
「しょうがないでしょ。お腹空いてたんだから」

こうやって、売り言葉に買い言葉のような会話をするのは久しぶりのような気がした。

「そういとこは変わってないけどさ、やっぱりお前は雰囲気変わったよ。なんか、すっかり都会の大人って感じ」
「そう?」

私は自分ではそんなことを感じないし、誰かに言われたこともなかったので、驚いた。
どこかこっぱずかしい気持ちになり、それを紛らわすためにほとんど残っていないビールのジョッキに口をつけた。

「でも、こうやって連絡が付かなくなってた菫とこの時期に会えたのって必然だったのかもな」
「え、どういうこと?」
「俺さ、結婚するんだよ」
「そうなの?誰と?」

彼はビールを片手に満面の笑みを浮かべていた。

「聞いて驚くなよ。日向と結婚するんだ」
「え、日向と?!」

私の質問に彼はやたらと誇らしげに頷いた。
昔から日向は陽翔に対して一途な思いを向けていたけれど、陽翔の方はそんな様子全くなかったのに。
私が知らない間に結婚するまで進展したなんて。

そのことが、私にあの場所から離れた年月が長いことを改めて感じさせた。

「それで、六月に結婚式を挙げる予定だから、来てよ。日向もさ、菫に来てほしいと思うし・・・・」
「うん。もちろん行くよ。」

ということは、その場で久しぶりに白澄と会うことになりそうだとそんな考えが頭の中を最初に過った。
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