白い菫が紫色に染まる時
次の日も仕事なので良い時間帯でお開きになり、帰宅した。

「ただいま」

私が玄関でそう言うと、お帰りという声が返ってきた。
蓮くんはソファに座り、ニュース番組を見ていた。
私も手を洗ったあと、彼の隣に座る。

「仲の良い友達に偶然会ったって聞いたけど、大学の友達?」
「ううん。地元の友達。こっちに上京してたみたいで、しかも同じ会社だったの。一年経って初めて知った。びっくりだよね」
私は家に帰って、気が抜けて酔いが回ってきたせいか、疲労感に襲われてソファの背もたれに思いっきり背中を預けた。
「北海道にいた時の友人か・・・。大丈夫だった?」
「え?何、大丈夫って」
「菫、地元のことを思い出すの好きじゃないでしょ。疲れたんじゃない?」

彼はおかっぱの女性が男性二人を両隣に引き連れて、「35億」と決め台詞を言っている芸人が出ているコマーシャルが流れているテレビの方には目を向けず、私の目をじっと見つめて言った。

「う~ん。どうなんだろう・・・・。なんか、意外に地元の話しても苦痛ではなかった。上京してだいぶ年月経ったから、もう乗り越えたのかな~」

私は、そう言って蓮くんから視線を逸らして天井を見つめた。
これは決して強がりとかではない。

「でも、疲れた。すごく」
「お風呂入って疲れとってきな。うたた寝し始める前に」

そう言った彼の言葉は全てを抱きしめてくれているような、とても優しい声をしていた。
その日の夜、私は打っては消して、迷ったけれど、寝る前に白澄にラインをした。
陽翔に、やたらと連絡しろと念を押されたし、先延ばしにすると、余計に連絡しにくくなるだろうと思ったのだ。

会わなくなってから、時間が経ちすぎて、最初に何を送るべきなのだろうかと何度も打ち直し、結局、無難に「連絡取れなくてごめん。久しぶりです」というメッセージにした。
すると、既読がすぐ付いて「陽翔から事情は聞いた。元気そうでよかった」と彼からも無難なメッセージが返ってきた。

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