白い菫が紫色に染まる時
「いや、飲む前に缶を振り忘れたと思って。小豆が底に溜まっちゃうから。飲み切れずに残っちゃうでしょ」
「そんなことか。菫は大袈裟だな。まあ、確かに勿体ないっちゃ勿体ないけど」

彼は残念がっている私を見て、どこか面白そうに笑っていた。笑いごとじゃないのにと、目の前にいる彼を軽くにらむ。

「あ、そうだ」

彼は何かを思いついたのか、突然立ち上がり、何かを取って戻ってきた。

「あっちにコーヒーメーカーがあったから。これがあれば全部飲めるだろ」

彼が手に持っていたのは、砂糖を入れてかき混ぜるときに使う小型のスプーンのようなものだった。正式名称はわからない。

「お~、頭良いね。ありがとう」

そして、私と白澄はその正式名称がわからないスプーンを使い、缶の底に残っていた小豆をすくって、無駄にすることなくお汁粉の缶を空にした。
その後、さすがにちびっこたちも疲れたのか、陽翔が彼らの手を引きながらチーズ工場にやってきたので、そこでみんなでしばらく談笑した後、帰宅することにした。

今日は楽しかった。
久しぶりにいっぱい体を動かして、心も体も解放されたような気がする。
しかし、高揚した気持ちは玄関の扉を開けて一気に地に落とされた。

なぜなら、そこには革靴があったからだ。
父親が帰ってきている。
父親がこの時間に家にいるということは、つまり家族全員で夕飯を食べなければならないということを意味する。

私にとっては憂鬱だった。

「今日は良い一日だったのにな・・・」

雪合戦して、久しぶりに日向たちにも会えて、楽しかったのに。
このたった一つの出来事で今日の楽しかった気持ちが全て波に流されてしまったようだった。

私は、玄関で靴を脱ぎ、縁側を歩いて一番大きな和室を通りキッチンにいる母親の元へ向かい帰ったことを伝えると、すぐさま自分の部屋に籠った。
それから何時間経ったのだろうか。


「あなた、菫。ご飯よ~」


自分の部屋で畳の上に寝転がってから、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
母親のご飯ができたことを知らせる声で目が覚め、私は「今行く」と大きな声で返事をして部屋を出た。
縁側を歩き、一番大きな和室に行く。そこには母親がすでに座っており、ご飯をよそっていた。

「自分の分は自分でやるよ。しゃもじ貸して」
「そう?」
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