白い菫が紫色に染まる時
私は母親の手から、しゃもじを受け取り、自分の茶碗に自分で米をよそった。
食べる準備ができたので、今すぐにでも食べたいが、まだ食べられない。

そして、数分経ったあと父親が来て、並べられたご飯の前に座り食事を始めた。
それを確認して、私と母親は食事に手を付け始める。それがこの家のルールなのだ。

私が中学生の時、お腹が空いて我慢できずに、先に食べ始めたら、本気で茶碗を投げつけられた。
その時は死ぬのではないかと本気で思った。ただただ恐怖だったのを覚えている。

それから、平和を維持するために、父親とは必要以上に話さず、逆らわないことを覚えた。
私が我慢をすれば、表面上は平和が保たれる。それは、一言で言うと「諦め」だった。

「今日は白澄くんたちと何してたの?」
「雪合戦。久しぶりに日向たちにも会ったよ」
「へ~。日向ちゃんはもう中学三年生よね。雪成くんと雪哉くんは・・・」
「今、小学五年生」
「そんなに大きくなったの。時が経つのは速いわね」

その間も父親は黙々とご飯を食べている。 
そして、あっという間に食べ終えて、何も言わずに席を立ち部屋に戻っていた。
自分の食器を流し台に置くくらいすればいいのに。

「お母さんはさ、なんでお父さんと結婚したの?」

母親に聞こえる程度の小さな声で聞いた。

「え?どうしたの、急に」
「いや。ちょっと気になって」
ちょっとどころではない。ずっと、気になっていた。何であんな寡黙な亭主関白の塊のような人と結婚したのだろうかと。
「ん~、何でだろうね・・・。敢えて、挙げるとしたら公務員で安定した職業に就いてたからかな」
「そっか・・・・」

期待していたわけではないけど、現実的な答えが返ってきて少し落胆している自分がいた
まあ、結婚なんてそんなものか。

「菫は白澄くんに嫁げたらいいわね。お母さんはそれが一番だと思うわ」
「ちょっと・・・」

母親が突拍子もないことを言い出したので、持っていたコップを危うく落とすところだった。
自分でも動揺していることがわかる。

「別に白澄とはそういう関係でも何でもないって」

母親は昔から白澄のことを気に入っている。
確かに、人見知りをしないし、誰かれ構わずにあの好青年ぶりを発揮するわけだから、母親が気に入らないはずがない。

「でも、菫。結婚に興味持ち出したから、そういうこと聞いてきたんでしょ?」
「違うから。もうこの話は終わり。ごちそうさま」

私は、この色恋話がエスカレートする前に話を切り上げて食器を片付けて自分の部屋に戻った。
< 10 / 108 >

この作品をシェア

pagetop