青春の坂道で
食堂を出た俺たちはその辺りをブラブラと歩いている。 そしてあの古本屋へ、、、。
「何かいい本は有るかなあ?」 二人で小説を探している。
そこへ経済学部の連中がドドっと入ってきた。 「経済学も難しいなあ。」
「難しいから経済学なんだよ。 俺たちエリートなんだぜ。 自信を持て。」 (自意識過剰な連中だなあ。 あんなのには関わらないほうがいい。)
俺は西村京太郎の小説を見付けるとレジへ飛んでいった。 「ああ、待ってくださいよーー。」
綾子も本を抱えて後から飛んできた。 どうやら松本清張の本らしい。
「今日もあの公園でのんびりしようか。」 「そうですねえ。 いいですねえ。」
隅っこにはダンボールハウスが投げ捨ててあるいつもの公演である。 通り過ぎる車も無い。
ベンチに二人並んで本を読んでいる。 考えてみればここで本を読んでいるのは俺たちくらいなもんだね。
二十歳も過ぎると親たちは結婚を意識するようになるらしい。 俺だって帰るたびに聞かれるんだ。
「そろそろ彼女くらい捕まえたんじゃないか? いつ頃結婚するんだ?」ってね。 でもそんな予定は無いんだ。
そもそも彼女を捕まえようとも思ってないし、、、。 だから焦ってもいない。
なるようにしかならないんだよ。 焦ってもどうしようもないじゃないか。
同級だった連中は居るの居ないのって張り合ってたけどなあ。 無駄だよなあ 張り合ったって。
だから綾子が付いてきたって何とも思ってないよ。 一人じゃないからいいかって感じ。
綾子はどう思ってるか分からないよ。 もしかしたら彼氏かもしれないし友達かもしれない。
聞いたところでどうなるってもんでもないんだから聞かないんだ。
4時くらいになると風が少しずつ冷たくなってくる。 まだまだ春だからねえ。
「さてと、そろそろ帰るかな。 夜の準備も有るし。」 「じゃあ夜は居酒屋で会いましょうね。」
無邪気に笑ってくる綾子に送られて俺は下宿へ戻ってきた。 「夜の準備を、、、。」
そう思いながら管理人の部屋を覗いてみるとお説教されていた高校生の親とおばちゃんが真剣な顔で話し合いをしていた。 (大変だなあ。)
部屋に入ると服を着替えて簡単な腹ごしらえをする。 5時半には店へレッツゴー!
店に飛び込むと開店準備に追われる。 なんせ責任者になっちまったものだから、、、。
それで6時には店を開けて暖簾を垂らす。 焼き場でもいい具合に火が入ってくる。
下祖なんて焼いてたら腹を空かせたおっさんたちが我も我もと暖簾を潜る。 今夜も大入りだねえ。
心配なのは綾子が来た時に座れるかどうかなんだ。 月曜日はけっこう入るからな。
イカを焼いたり刺身を出したり酒を貰ったりしていると8時を過ぎた。 (いつもならここから増えてくるんだよなあ。)
近所で出来上がったおっさんたちもやってくる。 そうすりゃあ店の中は戦場だ。
注意しながら見まわしているとガラガラっと戸が開いた。 「いいですか?」
見ると真っ赤になってる綾子だ。 どっかで飲んできたのかなあ?
テーブル席が空いていたからそこを指差してお絞りを持って行く。 「来たね。」
「はい。 初めて来ました。」 俺はメニュー表を渡してカウンターへ引っ込む。
やがて煮物を運んでいた中松俊樹が注文を聞いてきた。 「筑前煮とイカの刺身だそうです。」
「あいよ。 一郎の彼女なんだろう? 飛び切り美味いのを食わせてやれよ。」 「先輩、彼女じゃないってば。」
「彼女ってことにしておけ。 じゃないとおっさんたちに取られちまうぞ。」 「それはそうかもしれんけど、、、。」
「あれあれ? 一郎さんって彼女が居たの?」 他の女たちまで振り向いた。
「後輩ですよ。」 「それにしては可愛いじゃない。 店長の言う通りよ。 彼女だってことにしておきなさい。」
「はあ、、、。」 「ほら、持って行け。 一郎君。」
店長に渡された皿を持って綾子が座っているテーブルへ。 「今夜は飲まないの?」
「ああ、ちょっとだけ飲もうかな。」 「じゃあお猪口で持ってくるよ。」
「ありがとうございます。」 眼鏡を外した顔は初めて見た。
いつもは昼間だから眼鏡を掛けている所しか見なかったんだ。 可愛いじゃん。
一郎が徳利に日本酒を注いでいると「今晩は彼女の相手をしてやれ。」って店長が言ってきた。
「それじゃあお客が、、、。」 「後の連中は任せといてよ。」
三橋洋一もそう言うもんだから俺は綾子の向かい側に座った。 「いいんですか?」
「慣れるまでは俺が付いてるよ。」 「ありがとうございます。」
ポッと赤くなった綾子はお猪口を口に運んだ。 「美味しいですね。」
俺は綾子を見ながらコップ酒を飲んでいる。 (俺もお猪口にすればよかったな。)
後悔はしたものの飲み始めた以上は止まらない。 筑前煮を食べながら綾子は話し始めた。
「私、福岡生まれなんです。」 「へ? 福岡?」
「だから美味しい筑前煮が食べたかったの。」 「そっか。 そうだったのか。」
「何か?」 「北のほうの人間じゃないなってことは分かってたんだ。 福岡だったのか。」
「一郎さんは何処なの?」 「俺も福岡なんだよ。」
「一緒なんですね? 良かった。」 綾子は徳利の酒を飲んでしまったらしい。
「さすがはよく飲むなあ。」 「お父さんが飲み助だったから。」
「お互い様だな。 俺もそうなんだよ。」 二人が話しているのを見ながら店長は三橋に囁いた。
「あいつらお似合いだぜ。」 「そうですね。 羨ましいなあ。」
俺は3杯目の日本酒を注いだ。 「私もコップで飲もうかな。」
「え? そうする?」 「お願いします。」
「酔い潰れても知らねえぞ。」 「酔い潰れたら一郎さんに責任を取ってもらいますから。」
「言うなあ。 こいつ。」 俺がカウンターに行くと、、、。
「俺が持ってってやるから彼女の傍を離れるな。」って先輩が言ってきた。
俺たちの隣のテーブルではいつもの酔っぱらいがすっかり出来上がっていて3人で盛り上がっている。 「賑やかですねえ。 このお店。」
「そうだろう。 先輩が先輩だからな。」 「どういう意味だよ おい?」
「優しそうな人ですねえ。」 「俺か? 可愛い女の子にはめーーーっちゃと優しいよ。」
「先輩、それは言い過ぎでは?」 「バカ。 こういう時には売り込むんだよ。」
いつものことだ。 俺たちが先輩を突き回し先輩が俺たちに反撃してくるのは。
綾子は揚げ出し豆腐を食べながら美味そうに酒を飲んでいる。 「おいおい、あの子さあ顔色が変わらねえぞ。」
バイト連中はあっちでこっちでひそひそ話をしている。 午前0時を過ぎた。
「そろそろ看板にするぞ。」 「すっかり飲んじゃいました。」
綾子も満足そうに立ち上がる。 「一郎、あの子を送ってやれ。」
「片付けはいいんすか?」 「俺たちがやっとくから彼女を送れ。」
「分かりました。」 酔った頭で外に出る。
いつもは店の片付けをしながらさらに飲んで後は麻雀にのめり込んで雑魚寝してるのに、、、。 夜はやっぱり寒いなあ。
酔ってるからか夜風が冷たく感じる。 「公園通りは危ないから明るくなるまで俺の部屋に居ていいよ。」
「そうですか? でも、、、。」 「この辺はホームレスが多いんだ。 日雇いで今時に酔っぱらって歩いてるから。」
「そっか。」 並んで歩いていると幸せな気分になってくる。
本屋で見掛けてやっとここまで親しくなっただけなのに。 二人揃って無言で歩いていく夜道。
巡回中の警察官が擦れ違った。 何もやってないのに緊張するなあ。
公演は思った通りに酔っ払いが集まって喋ってる。 いつだったか、この中に大麻を吸ってるやつが居たんだよな。
公園もしばらく閉鎖されて隅々まで調べられたんだっけ。 あの時はずっと部屋で本を読んでたんだ。
「さあ着いた。 朝まで居てもいいからね。」 「ありがとうございます。」
酔っている綾子も見てると可愛いもんだな。 俺はそう思った。
「何かいい本は有るかなあ?」 二人で小説を探している。
そこへ経済学部の連中がドドっと入ってきた。 「経済学も難しいなあ。」
「難しいから経済学なんだよ。 俺たちエリートなんだぜ。 自信を持て。」 (自意識過剰な連中だなあ。 あんなのには関わらないほうがいい。)
俺は西村京太郎の小説を見付けるとレジへ飛んでいった。 「ああ、待ってくださいよーー。」
綾子も本を抱えて後から飛んできた。 どうやら松本清張の本らしい。
「今日もあの公園でのんびりしようか。」 「そうですねえ。 いいですねえ。」
隅っこにはダンボールハウスが投げ捨ててあるいつもの公演である。 通り過ぎる車も無い。
ベンチに二人並んで本を読んでいる。 考えてみればここで本を読んでいるのは俺たちくらいなもんだね。
二十歳も過ぎると親たちは結婚を意識するようになるらしい。 俺だって帰るたびに聞かれるんだ。
「そろそろ彼女くらい捕まえたんじゃないか? いつ頃結婚するんだ?」ってね。 でもそんな予定は無いんだ。
そもそも彼女を捕まえようとも思ってないし、、、。 だから焦ってもいない。
なるようにしかならないんだよ。 焦ってもどうしようもないじゃないか。
同級だった連中は居るの居ないのって張り合ってたけどなあ。 無駄だよなあ 張り合ったって。
だから綾子が付いてきたって何とも思ってないよ。 一人じゃないからいいかって感じ。
綾子はどう思ってるか分からないよ。 もしかしたら彼氏かもしれないし友達かもしれない。
聞いたところでどうなるってもんでもないんだから聞かないんだ。
4時くらいになると風が少しずつ冷たくなってくる。 まだまだ春だからねえ。
「さてと、そろそろ帰るかな。 夜の準備も有るし。」 「じゃあ夜は居酒屋で会いましょうね。」
無邪気に笑ってくる綾子に送られて俺は下宿へ戻ってきた。 「夜の準備を、、、。」
そう思いながら管理人の部屋を覗いてみるとお説教されていた高校生の親とおばちゃんが真剣な顔で話し合いをしていた。 (大変だなあ。)
部屋に入ると服を着替えて簡単な腹ごしらえをする。 5時半には店へレッツゴー!
店に飛び込むと開店準備に追われる。 なんせ責任者になっちまったものだから、、、。
それで6時には店を開けて暖簾を垂らす。 焼き場でもいい具合に火が入ってくる。
下祖なんて焼いてたら腹を空かせたおっさんたちが我も我もと暖簾を潜る。 今夜も大入りだねえ。
心配なのは綾子が来た時に座れるかどうかなんだ。 月曜日はけっこう入るからな。
イカを焼いたり刺身を出したり酒を貰ったりしていると8時を過ぎた。 (いつもならここから増えてくるんだよなあ。)
近所で出来上がったおっさんたちもやってくる。 そうすりゃあ店の中は戦場だ。
注意しながら見まわしているとガラガラっと戸が開いた。 「いいですか?」
見ると真っ赤になってる綾子だ。 どっかで飲んできたのかなあ?
テーブル席が空いていたからそこを指差してお絞りを持って行く。 「来たね。」
「はい。 初めて来ました。」 俺はメニュー表を渡してカウンターへ引っ込む。
やがて煮物を運んでいた中松俊樹が注文を聞いてきた。 「筑前煮とイカの刺身だそうです。」
「あいよ。 一郎の彼女なんだろう? 飛び切り美味いのを食わせてやれよ。」 「先輩、彼女じゃないってば。」
「彼女ってことにしておけ。 じゃないとおっさんたちに取られちまうぞ。」 「それはそうかもしれんけど、、、。」
「あれあれ? 一郎さんって彼女が居たの?」 他の女たちまで振り向いた。
「後輩ですよ。」 「それにしては可愛いじゃない。 店長の言う通りよ。 彼女だってことにしておきなさい。」
「はあ、、、。」 「ほら、持って行け。 一郎君。」
店長に渡された皿を持って綾子が座っているテーブルへ。 「今夜は飲まないの?」
「ああ、ちょっとだけ飲もうかな。」 「じゃあお猪口で持ってくるよ。」
「ありがとうございます。」 眼鏡を外した顔は初めて見た。
いつもは昼間だから眼鏡を掛けている所しか見なかったんだ。 可愛いじゃん。
一郎が徳利に日本酒を注いでいると「今晩は彼女の相手をしてやれ。」って店長が言ってきた。
「それじゃあお客が、、、。」 「後の連中は任せといてよ。」
三橋洋一もそう言うもんだから俺は綾子の向かい側に座った。 「いいんですか?」
「慣れるまでは俺が付いてるよ。」 「ありがとうございます。」
ポッと赤くなった綾子はお猪口を口に運んだ。 「美味しいですね。」
俺は綾子を見ながらコップ酒を飲んでいる。 (俺もお猪口にすればよかったな。)
後悔はしたものの飲み始めた以上は止まらない。 筑前煮を食べながら綾子は話し始めた。
「私、福岡生まれなんです。」 「へ? 福岡?」
「だから美味しい筑前煮が食べたかったの。」 「そっか。 そうだったのか。」
「何か?」 「北のほうの人間じゃないなってことは分かってたんだ。 福岡だったのか。」
「一郎さんは何処なの?」 「俺も福岡なんだよ。」
「一緒なんですね? 良かった。」 綾子は徳利の酒を飲んでしまったらしい。
「さすがはよく飲むなあ。」 「お父さんが飲み助だったから。」
「お互い様だな。 俺もそうなんだよ。」 二人が話しているのを見ながら店長は三橋に囁いた。
「あいつらお似合いだぜ。」 「そうですね。 羨ましいなあ。」
俺は3杯目の日本酒を注いだ。 「私もコップで飲もうかな。」
「え? そうする?」 「お願いします。」
「酔い潰れても知らねえぞ。」 「酔い潰れたら一郎さんに責任を取ってもらいますから。」
「言うなあ。 こいつ。」 俺がカウンターに行くと、、、。
「俺が持ってってやるから彼女の傍を離れるな。」って先輩が言ってきた。
俺たちの隣のテーブルではいつもの酔っぱらいがすっかり出来上がっていて3人で盛り上がっている。 「賑やかですねえ。 このお店。」
「そうだろう。 先輩が先輩だからな。」 「どういう意味だよ おい?」
「優しそうな人ですねえ。」 「俺か? 可愛い女の子にはめーーーっちゃと優しいよ。」
「先輩、それは言い過ぎでは?」 「バカ。 こういう時には売り込むんだよ。」
いつものことだ。 俺たちが先輩を突き回し先輩が俺たちに反撃してくるのは。
綾子は揚げ出し豆腐を食べながら美味そうに酒を飲んでいる。 「おいおい、あの子さあ顔色が変わらねえぞ。」
バイト連中はあっちでこっちでひそひそ話をしている。 午前0時を過ぎた。
「そろそろ看板にするぞ。」 「すっかり飲んじゃいました。」
綾子も満足そうに立ち上がる。 「一郎、あの子を送ってやれ。」
「片付けはいいんすか?」 「俺たちがやっとくから彼女を送れ。」
「分かりました。」 酔った頭で外に出る。
いつもは店の片付けをしながらさらに飲んで後は麻雀にのめり込んで雑魚寝してるのに、、、。 夜はやっぱり寒いなあ。
酔ってるからか夜風が冷たく感じる。 「公園通りは危ないから明るくなるまで俺の部屋に居ていいよ。」
「そうですか? でも、、、。」 「この辺はホームレスが多いんだ。 日雇いで今時に酔っぱらって歩いてるから。」
「そっか。」 並んで歩いていると幸せな気分になってくる。
本屋で見掛けてやっとここまで親しくなっただけなのに。 二人揃って無言で歩いていく夜道。
巡回中の警察官が擦れ違った。 何もやってないのに緊張するなあ。
公演は思った通りに酔っ払いが集まって喋ってる。 いつだったか、この中に大麻を吸ってるやつが居たんだよな。
公園もしばらく閉鎖されて隅々まで調べられたんだっけ。 あの時はずっと部屋で本を読んでたんだ。
「さあ着いた。 朝まで居てもいいからね。」 「ありがとうございます。」
酔っている綾子も見てると可愛いもんだな。 俺はそう思った。