青春の坂道で
 土曜日、大学も休みだからバイトも休みにしてもらって久しぶりの故郷へ、、、。 泉川市に帰ってきたのはほんとに久しぶりだ。
駅を出て沼田の家を探す。 あいつの家は雑貨屋さんだったから、、、。
 商店街を歩き回ってやっと沼田商店を見付けた俺は親父さんに挨拶をして中に入れてもらった。
「木下君 子供の頃からよく遊んでくれたね。」 「いやあとんでもない。 遊んでもらったのはぼくのほうですよ。」
 やつはいつも新しいおもちゃを出しては俺に見せてくれた。 そしてプラモデルもいつも一緒に作ったもんだ。
時には姉さんまで一緒になって走り回ったっけなあ。 そんなやつが死んじゃった。
信じられなかった。
 やつの部屋に入ってみる。 棺は何処にも無い。
「あんまりひどい状態だから先に火葬してもらったんだ。」 「そうなんすか? 顔を見たかったな。」
「いやいや、顔も潰れてたんだ。 見せられなかったよ。」 遺影を前にして親父さんが寂しそうに話してくれる。
 静かに雨が降り始めた。 夜には高校の友達も集まって食事会だ。
立浪も小笠原も元気で居るらしい。 会うのは2年ぶりかな。
 立浪は同級の相良芳江とさっさと結婚したんだって聞いている。 小笠原は本屋の店員になったとか、、、。
 7時を過ぎた頃、玄関が賑やかになってきた。 「あらあら、いらっしゃい。 一郎さんも来てるわよ。」
「一郎も来てるのか。 こりゃあ今夜は徹夜だなあ。」 吉原昇の笑い声が聞こえる。
 男たちが固まって二階の部屋に入ってきた。 「本当に沼田は死んじまったんだ。」
遺影を見付けたみんなは崩れるように跪いて手を合わせた。 「早過ぎるぜ。 もっと飲みたかったのに、、、。」
 「皆さん 来てくれてありがとう。 弟も喜んでるわ。」 姉さんが食事を運んできた。
そこへ連絡を受けていた山本加奈子や佐藤恵子もやってきた。 「ゆかりちゃんたちも来るんだって。」
「そっか。 今夜はクラス会だな。」 「じゃあ立浪君 仕切ってよ。」
「俺がか?」 「クラス委員だったんでしょう? やれるわよねえ?」
「分かった。 分かったから怖い顔するなよ。」 恵子たちも手を合わせてから箸を持った。

 「今日は沼田を思うクラス会だ。 湿っぽくならんように派手にならんように賑やかにやろうな。」 「オー。」
 俺は沼田とは古くからの友達だった。 小笠原より立浪より古かったはず。
立浪は俺たちのクラスでムードメーカーだった。 いつも小笠原と二人で漫才をやってたっけ。
 高校時代、俺は趣味でバドミントンをやってたんだ。 大してうまいほうじゃなかったけど。
恵子にはいつもやり込められてたなあ。 それを見て高橋はいつも笑っていた。
 そんなことまで思い出しちまったよ。 「ところで一郎はどうなんだよ?」
「どうって何が?」 「大学に通ってんだろう? そろそろ彼女くらい捕まえたんじゃないのか?」
「立浪とは違うから彼女なんて居ないよ。」 「文学青年なら彼女くらいすぐに出来るだろう?」
「そんな甘いもんじゃないぜ。」 「へえ、まだ居ないのか? だったらさあ、ゆかりでもどうだ?」
「あたし一郎さんは苦手だからいいわ。」 「あらら早速に振られてやんの。」
「俺のことはどうでもいいんだってばよ。 「そうだそうだ。 今夜は沼田の送迎会だ。」
 そこで誰が指揮を執ったかは知らないが双葉高校の校歌を全員で合掌してお開きにしたんだ。
その後、立浪と小笠原、それに俺と沙織は居酒屋で二次会をすることにして家を出た。
 そこでもやっぱり沼田の思い出話に花が咲いた。 「あいつさあ、彼女居なかったのかなあ?」
「聞いたこと無いなあ。」 「一郎も知らないのか?」
「お互いに相談もしなかったからな。」 「もしかしてライバルだったの?」
「さあねえ。 やつがどんな女を好むかなんて知らなかったから何とも言えないよ。」 「それもそうだな。」
 「一郎さあ、帰ったら彼女が待ってるんだろう?」 「居ないって言っただろう。」
「なんか剥きになってませんか?」 「なってないなってない。」
 そんな調子で2時まで飲んで家に帰ったんだ。 部屋に飛び込んだらそのまま寝ちまってなあ。
次の日は日曜日だったからまたまたみんなで集まって俺たちの葬式をやった。 遺影を真ん中に置いてみんなで歌ったんだ。
それが終われば俺は大学へ帰る。 なんか空しい気持ちでいっぱいだった。

 夕方、下宿に帰ってくるとおばちゃんが走り回っている。 (どうしたんだろう?)
気にはなるけどゼミの準備もしなきゃないし洗濯物も溜まってるし、、、。
 部屋に入って本を読んでいると、、、。 「まったくもう、、、ちっとは考えなさい!」
おばちゃんが怒っている。 高校生が何かやらかしたのかな?
 廊下に出てみると一番奥の部屋でおばちゃんがお説教の真っ最中。 (あいつらか。 あいつらはやらかすだろうなあ。 こないだだってすごかったんだからな。)
廊下はドタドタ走り回るし部屋じゃあ大声で喋りまくってるし夜だって遅くまで遊んでるし、注意したって聞かないし。 「いいわ。 あんたたちは出ていきなさい。 お父さんたちに話しておくから。」
おばちゃんはそう宣告して一階へ下りていった。 (しゃあない連中だぜ。 まったく、、、。)
 翌日は月曜日。 気分も一新してゼミへ、、、。 門を入ると綾子が駆け寄ってきた。
「おはようございまーす。 ゼミですか?」 「そうだよ。 今日は東島先生だ。」
「私もこれからゼミなんです。 頑張りましょうね。」 綾子の明るく笑う顔を見ていたら沼田が死んだことも忘れちまいそうだ。
 「よう、一郎じゃないか。 お前知ってるか?」 「何がだよ?」
「鳩山が中国と仲いいんだって。」 「今始まったことじゃねえよ。」
「ああ、おいおい逃げるのか? この大事件をどう思うんだ?」 「お前に彼女が居るほうが大事件だよ。」
「何だと? この野郎!」 まったく面倒くさいやつって何処の世界にも居るもんだ。
 食い下がろうとする川村を追い払って教室へ、、、。 でもなあ東島先生のゼミってしこたま眠くなるんだよなあ。
日本文学史をお説きくださるのは有り難いけれど眠くてしょうがねえ。 でもなあ、寝てるところを試験の範囲にしやがるから寝てられないんだ。
 2時間のロング説法を終えて教室を出てきた時には昼。 食堂へ行こうと思って歩いていると綾子がやってきた。
 「一郎さん! 待ってくださいよーーー!」 バッグを抱えて綾子が走ってきた。
「そんなに急いで、、、。」 「置いて行かれそうだったから、、、。」
「今から昼飯を食べに行くんだ。」 「私も行きます。」
 最近では綾子と一緒に歩くことが多くなってきたんだよな。 あの食堂にもよく行くし。
「夜は何処でバイトしてるんですか?」 「裏の居酒屋だよ。」
「え? 居酒屋なんて有りましたっけ?」 「小さい店だから分かりにくいんだよなあ。」
「何ていうお店なんですか?」 「太郎だよ。」
「今晩行ってみようかな。」 「おいおい、来るの?」
「ダメですか?」 「ダメとは言わないけど、、、。」
「じゃあ8時くらいに行きますね。」 「う、うん。」
 となるとさあ、先輩が、、、。 「一郎よ、お前の彼女は可愛いなあ。」なんて言ってくるんだろうなあ。
でもまあ横取りするような人じゃないから安心だけど、、、。 でもまだまだ彼女だって決まったわけでもないし、、、。
炒飯を食べながら綾子の横顔を覗いてみる。 なんか幸せそうだなあ。
< 9 / 16 >

この作品をシェア

pagetop