【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜


 田舎の小さな屋敷で、今までよりずっと慎ましく暮らしていた両親が、夏休みの半ばになってある日突然オリアーナの元を訪ねて来た。もうこの人たちは縁のない人たちなのだが、たまたま事情を知らない使用人が応接間に通してしまった。

 詳しい話を聞いたオリアーナは、呆れて小さく息を吐いた。

「――なるほど。私を借金のかたにしたい、ということですね」
「そ、そういう言い方はよさんか」

 今まではオリアーナに対して威圧的な態度を取っていた父が、ご機嫌を伺うようなへつらう態度を取った。

 というのも、両親が多額の借金を作ってしまったからだ。派手好きの父はさることながら、母も貧しさを知らないお嬢様育ちで、享楽が好きだった。爵位を手放してもなお散財を繰り返し、家計は火の車だとか。

「ヴィスト伯爵は、『聖女』のお前が嫁いでくれるなら借金を肩代わりしてくださるそうだ。それから、今後の生活に困らない額の支度金まで用意していただけると……」

 ヴィスト伯爵といえば、好色家で評判が最悪の人だ。金のために娘をそんなよく分からない男のところに嫁がせようとするなんて呆れる。

「お願いよオリアーナ。これまでの恩に報いると思って、縁談を受けてちょうだい……?」

 これまでの恩? そんなものに心当たりはない。ずっと自分たちの名誉ばかりを考えて、子どものことを蔑ろにしてきたくせに、今更母親面してくるのはちゃんちゃらおかしい。


『嫌なことは嫌だって言え』


 ふと、セナにいつかのとき言われた言葉を思い出した。これまでは両親の言いなりになって、自分の気持ちを押し殺して来た。

 もう、我慢したりしない。始祖五家でありながら非魔力者に生まれてしまったことに負い目を感じていたのは過去のこと。これからは自分に誇りを持ち、自分に正直に生きていきたい。

「――お断りします」

 父は激怒し、母は肩を震わせて泣き始めた。予想通りの反応だ。

「なんだと……!? この恩知らずが!」
「こんな薄情な娘に育てた覚えはないわ……」

 責められても、オリアーナははっきり自分の意思を告げた。

「もう私はあなた方を両親とは思っていません。戸籍上も私たちは親子ではありません。それに私には……他に特別な人がいるんです」

 応接間の扉を開き、セナを部屋に招き入れる。ちょうど今日、家に遊びに来ていたのだ。
 両親は始祖五家ティレスタム公爵家の令息を見て、目を丸くする。

「ご無沙汰しております。アーネル夫妻」
「嘘……まさか、何の取り柄もないうちの娘なんかを気に入ったの……?」

 母が思わず零した本音。セナは余裕たっぷりに微笑んで答えた。その目は少しも笑っていないが。

「俺にはもったいないくらい素敵な人です。あなた方は知らないだけで、オリアーナは皆に愛されているんですよ」

 まともな嫁ぎ先なんて見つかりはしないと散々馬鹿にしてきた両親は、茫然自失となった。

 セナは両親に対して、オリアーナと結婚したとしても、経済的な支援はするつもりはないとはっきり告げた。

 人のいいオリアーナを利用してやろうと画策していた両親は、今までに見たことがないくらい、落胆の表情をしていた。
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