【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜


「これが何か、お前も分かっているな?」
「いえ……全く」
「魔力核を失って頭まで馬鹿になったか? ったく。これはこの国の聖女だけが扱える召喚笛。『呼び笛』と呼ばれている。お前には聖女の資質があるっつーことだ」

 ――聖女。それは、この国の創始の功労者のひとり。当時、魔物の群生地帯と化していた土地を取り返すため、王家と始祖五家の初代とともに戦い、見事奪還した土地にヴィルベル王国を建国したのだ。

 建国から今に至るまで、王家と始祖五家の中から聖女の資質を持った女が一代につき一人現れ、国の平和を守り続けてきた。聖女は召喚笛で幻獣を召喚し、その声で操ることができる。その能力の強大さゆえ、異質とされてきた。

「男に聖女の資質ってだけで前代未聞な上、今のお前は魔法が使えないときた。学院側としては、本部に早く報告して判断を仰ぎ――」
「待ってください」

 そこで口を挟んだのはセナだった。

「魔法士団に報告するのは待ってください。現聖女の力の弱体化により、軍部は新聖女を待ちわびています。しかし、今のまま戦場に駆り出され、不完全な状態で力を酷使するのは危険すぎます。魔法が扱えない今は、学院の下で庇護していただきたく思います」

 現在の国も、魔物が出没することがあり、魔法士団が唯一の対抗組織として存在する。聖女は一代につきたった一人しかおらず、新たな聖女が現れると、古い聖女の力は衰えていく。
 そして、現聖女も現在、弱体化が進んでおり、魔法士団は新たな聖女を躍起になって探している。

(……沈黙するのではなく、国のためにすぐに名乗るべきじゃないかな)

 オリアーナの意見はセナとは反対だった。たとえ魔法が使えないオリアーナが戦場で酷使されることになろうとも、それが聖女の務めならば逃げるべきではないだろう。

「先生、私は――」
「リア」

 責任感と正義感の強いオリアーナは、すぐに本部に報告するべきだと進言しようとしたが、セナに腕を掴まれ阻まれた。彼の方をちらりと見ると、彼は首を横に振って「余計なことを言うな」と目で伝えてきた。セナはオリアーナのことになると過保護だ。

 エトヴィンはううむ……としばらく考えてから頷いた。

「そうだな。我が校としても、生徒の安全を第一に守る義務があるからな。俺から上に掛け合っておく」
「ご配慮、痛み入ります」

 セナはもう一度丁寧に礼をし、踵を返した。オリアーナもその後ろを着いて行った。
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