お飾り王妃は華麗に退場いたします~クズな夫は捨てて自由になっても構いませんよね?~【極上の大逆転シリーズ】
 戦いが終わったのち、オリヴィアは人気のない城壁の一画にひざを抱えて座っていた。ぎゅっと縮こまった小さな肩。震える唇。

 家臣達の前では、辺境伯家の娘らしく怯(おび)えた様子などまったく見せていなかったというのに。そこにいたのは、恐怖を押し殺している少女。

 ルークが隣に腰を下ろしたら、びくっとしたように肩を跳ね上げた。

「これ、やるよ」

 ポケットから取り出したのは、キャンディだ。戦いの最中、手軽に糖分が取れるからと父から持たされたもの。

 今日の戦いはそれほど激しくなかったから、持たされたキャンディはまだ食べずにポケットの中にあった。

 目をぱちぱちとさせたオリヴィアの視線は、ルークの手の中にあるキャンディとルークの顔を往復している。手に取らないので、ルークが包み紙をはいで口の中に押し込んでやった。

「蜂蜜(はちみつ)のキャンディ。うまいだろ」

「……おいしい」

 ぱっと顔が明るくなる。糖分で緊張がほぐれていくのもわかった。赤い目が大きく見開かれて、それからとろりと蕩(とろ)けた笑みになる。

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