27番目の婚約者

 この痣の存在を知ってから父はアリシアに関心を持たなくなったと乳母が言っていた。
 まさか今度はジェラールに嫌われてしまうのだろうか。怯えて俯いていると、ジェラールがアリシアの両手を取って優しく握り締めてくれる。

「大丈夫。不安がる必要はない。この痣はアリシアの素敵なチャームポイントだ。それと、私はどんなアリシアも愛している」
「ジェラール様……」

 ジェラールにすべてを受け入れてもらえて、アリシアの心は一気に晴れていく。
 実の父にすら受け入れてもらえなかった不気味な痣を受け入れてくれたジェラール。
 その懐の深さに自分も答えたい。

「わ、私も、どんなジェラール様でも愛します!」
 愛しますなんて口にするのはとても緊張するけれど、この想いをジェラールに知ってもらいたい。そんな一心でアリシアが言葉を紡げば、ジェラールは艶然と微笑んで口端を吊り上げた。


「嬉しいよアリシア。――でもこれは私がつけたものだから」
「え?」
 ジェラールはアリシアの痣に触れると素早く何かを唱えた。


 唱え終えた途端、アリシアは意識を失ってガクンとベッドに倒れ込む。
 ジェラールはアリシアの頬を愛おしげに撫でるとうっとりとした表情で話しかける。
「どうだ今の気分は? 私から逃げ切れるとでも思ったか? ――ニナ」

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