27番目の婚約者


 するとまた寒気と胸騒ぎを覚える。

 ジェラールに求婚されてからアリシアは毎日この感覚に襲われていた。それはすぐに消えてしまうし、特に病気という訳でもないので医者には診せていない。
 これは世間一般で言われるマリッジブルーかもしれないと結論を出していると、扉の開く音がした。

 頭を動かすと戸口の前に慈しむような目でこちらを眺めるジェラールが立っている。その姿を見た途端、アリシアの中で『マリッジブルー』という文字はすっかり消えてしまった。
 ずっと憧れていたジェラールと結婚できたのだから悩むことなんてアリシアにはない。

 ジェラールはゆったりとした足取りでこちらにやってくるとアリシアの隣に腰を下ろす。彼もまた夜気に着替えていて、いつものかっちりとした服装とは違ってゆったりとした生地に身を包んでいる。
 引き締まった胸もとが視界に入ってアリシアは顔を赤くした。いつも以上に色気が漂っているジェラールにくらくらしてしまう。そしてこれから始まるの長い夜に全身が熱くなる。


「大丈夫、怖いことはしないから。目を閉じて」
 アリシアはジェラールに身を委ねた。

 するとジェラールの唇が額に落ちてくる。額から頬、頬から唇、唇から首筋へ――。
 彼の熱を感じ取ってドキドキしていると、うなじ辺りでそれがぴたりと止まった。
 アリシアはハッとして目を開くと、もぞもぞと身じろいでからうなじの辺りを手で覆う。

「あ……これは生まれつきの痣なんです。誓って傷ではないので……だから……」
 アリシアのうなじの辺りには生まれつき特徴的で不気味な痣がある。普段はパウダーで隠しているのだが、今は湯浴みをして夜着に着替えていたのですっかり忘れてしまっていた。

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