27番目の婚約者


「ジェラール様っ!」
 アリシアはジェラールを見るやいなや飛びついた。
「やあ、アリシア」
 ジェラールは無邪気に飛びついたアリシアを腕の中でしっかり抱き留めると優しく頭を撫でてくれた。
 頭を動かして顔を上げると、そこには溜め息が出るほど整った美貌がこちらに向かって微笑みを浮かべてくれている。
 青みがかったさらさらとした黒髪に、菜の花のように鮮やかな黄色い瞳。彫りの深い顔立ちで、高くも低くもない丁度良い高さの鼻に、薄い唇。
 国境付近を守る領主だというのに体つきは筋骨隆々ではなく、それなりに細く引き締まっていて上背もある。要は、ジェラールは誰もが認める完璧な男性だった。

 そんなジェラールは御年36歳で未だに妻を娶っておらず独身を貫いている。
 どうして独身のままなのかというと、ジェラールが若い頃の国境付近は隣国と一発触発の緊張状態が続いていて、結婚どころではなかったからだという。
 嫁を探すにも首都で開かれる社交パーティーに何度も足を運ばなくてはいけない。
 当時のジェラールにそんな余裕があるはずもなく、首都へ訪れても諸々の手続きを終わらせるとすぐ領地へと帰っていた。

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