龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
「はい、首から手を離して!手綱を握って」
あたしがそう声をかけても、ワイバーンの背中に乗ったザラードはその首にしがみついてる。
完全に腰が引けてぶるぶる震えながら泣き言を言った。
「む、無理だよ…!飛竜が飛ぶのがこんなに速いなんて……うわぁーー!」
ザラードはバランスを崩し、砂の上に落下。大丈夫かと駆けつけたら、腰を抜かし涙目で震えてた。
飛竜訓練の初日。今日はあくまで超低空飛行で騎竜に乗る、という体験をする目的だったんだけど…。
竜騎士団団長の前で勇壮な決意をしたものの、大半の候補生は騎竜の首や背中にしがみつくだけで精一杯。
(うーん…最初はこんなものかな、やっぱり。あたしは物心つく前からワイバーンに乗ってたからなあ…失敗した思い出がないんだよね)
うーむ、と思わず考え込んでしまう。
教官も適切な指導をしていると思うけど、やっぱり飛ぶドラゴンから落ちるという体験をしてしまうと、身体が恐怖で萎縮する人もいる。
それは、生物の生存本能から間違ってはいないんだけど……。
(空飛ぶ楽しさを知ればいいと思うんだけど……ひとまず、最低限としてみんなワイバーンに騎乗できるようにしないとね)
竜騎士団長のクロップス卿がおっしゃる通り、臥龍の儀は2か月後に迫っている。悠長なことはしていられないな。
(いつもどおり居残りを……それも、時間を増やすしかない。40人全員が竜騎士になってほしいもんね)