龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?

「デビュタントダンス…ですか?」
「あら、ご存知なかったんですの?」

首をひねるあたしに、マリナさんが意外そうな声を出した。

「デビュタントとパートナーのみが踊る特別なダンスですわ。ステップが難しいので、普通は半年前から練習しますのよ」
「……初耳だよ」

そもそも、社交界デビューについてはヴァイスさんからひと言も話が出た事はない。街に出かけた時にたまたま会ったリリアナさんが、代わりにデビュタントのドレスを見繕ってくれたくらいだ。

(というか……別にあたしは社交デビューする必要はないじゃん。だって、本当はヴァイスさんの何でも無いんだし……今だって、近くにいるのは偽の恋人でいるからなんだ)

調子に乗って社交界デビューしてしまえば顔が知られてしまい、引っ込みがつかなくなる。だから、ヴァイスさんもあたしに話しをしないんだろう。必要がまったく無いから。

(本物の恋人なら、顔出しするため今ごろ準備してるだろうけどね……)

ちょっと寂しい気もするけど、仕方ない。あたしには竜騎士になる夢がある。ヴァイスさんといずれ離れて竜騎士の同僚としていられればいい…と思うのに、ずっしりと胸が重くなった。


< 167 / 267 >

この作品をシェア

pagetop