龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?



リリアナさんが顔を俯かせ震えてるのも無理はない。大切なお父様なんだ。
だけど、重体ならば刻一刻を争うかもしれない。
あたしはリリアナさんの肩に手を置いて揺さぶる。

「リリアナさん、早くクロップス卿…お父様のもとへ行かなきゃ。あ、あなた早く馬車を正面玄関へ回してきて!」
「は、はい!」

リリアナさんの侍女に指示を出すと、彼女は急いで部屋を出た。

「リリアナ様!」
「大丈夫ですか?お飲み物でもお持ちしましょうか?」

マリナさんとカリンさんが心配していると、リリアナさんの手があたしの手を掴みすっと肩から外された。
そして、彼女はすくっと立ち上がる。誰の手も借りずに。

「ありがとう……もう、大丈夫ですわ」

まだ多少青いけど、微笑んだリリアナさん。ほっとしたあたしが「じゃあ帰らなきゃ」と言うと、彼女は首を横に振る。

「え、お父様に会わないの?重体なんでしょう!万が一なにかあったら……」

その先は彼女にはつらすぎるだろうから、言えなかった。なのに……。

リリアナさんは、もう一度首を横に振った。

「ありがとう、アリシアさん。あなたは本当に優しい人ですわね」
「そんなことない!あたしだって、本当はわがままなんだ。あなたのお父様の容態より、ヴァイスさんの無事の方が気になってる」

あたしが本音を口にすると、リリアナさんはそれを肯定してくれた。

「いいのですわ、それで。わたくしのお父様はわたくしのお父様であり、あなたのお父様ではございませんから…それぞれ大切な人が違うのはあたりまえです」





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