龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?


他のドラゴンのお世話をするために森の奥へ足を踏み入れると、バサバサッと派手な羽音とともに風が起きて周囲の梢が揺れる。

《よお、アリシア。ぼんくらたちは目覚めたか?》

そんな乱暴な言葉を発してきたのは、真っ赤な鱗と翼を持つ中型のファイアドラゴンであるバーミリオン。相変わらず口が悪い。
バーミリオンはあたしが拾ってきたもののひとつ。卵から孵ったばかりなのに、親も見つからず放置されていた彼をわたしが保護して育て上げたんだ。
ちなみに、ドラゴンは口から音を発して会話するわけじゃない。心を許したり主人と定めた者のみ、心と心で会話をするんだ。魔力がある人間には聴こえる時もあるみたいだけど。

「まだだよ。だけど、何も知らないのにぼんくらなんて言わないでよ」
《けどよ、もう3日経つぜ?そろそろヤバいんじゃねえか?ウズなんて猛毒にやられたなら、今にぽっくり逝ってもおかしくないぜ》
「……大丈夫だよ」

バーミリオンの言葉はあたしの胸中そのものだったけれども、首を振って否定した。

(大丈夫…あたしは毎日頑張ってる。あの人たちだって生きるために戦っているんだ…あたしは絶対諦めないから!)

ギュッと拳を握りしめて、自分に言い聞かせた。
自分が弱気になれば、悪い影響しかない。まだ彼らは生きている。ならば、あたしは最大限努力するだけだ。

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