龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
「そうですか……」
(だから、ヴァイスさんは偽の恋人になれって…あたしに言ったんだ)
こんなへんちくりんな身分のない女が恋人なら、逆にゲテモノ趣味だから…と諦めるかもしれないから。
ちょっとだけちくりと胸が痛むけど、これはヴァイスさんのせいじゃない。あたし自身の問題だ。
彼の甘さに、ちょっとでも期待してしまっていいのかな…なんて、考えてしまったあたしの。身の程知らずの欲張りな、醜い心。
(どんな態度だって……彼は本気じゃない。だから、あたしも本気になっちゃいけないんだ)
あたしは、あくまで目くらましの偽の恋人役。溺れきっちゃいけない。
ヴァイスさんの態度はあくまで仮のもの……。
本気にしたら、悲しい目に遭うだけだ。
(大丈夫……あたしは竜騎士になる、という夢があるんだ。恋だの愛だのは二の次。まずは竜騎士になることだけを考えよう)
あたしが黙ってしまったからか、侍女たちもお喋りをやめて静かについてくる。メグさんに案内されて到着された先の部屋を見て、さらに驚くしかない。
2階にある居住区の廊下をずっと奥へ向かうと、警備兵が大きなドアを開いてくれる。中に足を踏み入れると、大きな窓のある二間続きの部屋に入った。
「わ……あ」
大きな窓の外にはバルコニーがあり、小高い丘に位置するこの部屋から市街地や緑豊かな郊外の景色まで一望できる。
「もともと、このアプリコット城は五百年前に築城された古城なのです。古い時代はこちらに国王陛下、王妃様がお住まいでらっしゃいました。ですから、ここは“王妃の間”と呼ばれておりますの」
メグさんが由来を教えてくれたから、この立派さに納得できた。