龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?


「よい…しょっ、と」

6日目の深夜、あたしは少し外れの崖を登っていた。
深夜にしか咲かない花……アーブローズ。万能薬に近い薬効を持つこの地にしか分布しない貴重な固有種だ。しかも、3月の短い期間にしか開花しない。

この花を煎じれば、竜騎士さんも回復するはず。

ただ、咲いているのが崖のごく一部にだけ。
おばあさまに話せば絶対反対されるのは目に見えていたから、こっそり準備して抜け出した。

「……やっぱり、きっついなあ。でも、あと少しだ」

汗を拭いチラッと下を見れば、木々の緑の絨毯が見える。さすがに午前3時を過ぎたらよほどの夜行性動物でない限り活動する生命はない。

でも。

ふわりと光の粒が集まったかと思うと、目の前にちいさな人型の妖精が現れる。花でできたドレスを着た羽のある風の妖精…シルフだった。

《アリシア、はいこれ。花の蜜を入れたわ》

シルフがふわりと手にした花を差し出してくる。それに口をつけると、ほんのり甘い水が喉を潤してくれる。心なしか疲れも取れた気がした。

「……美味しい。ありがとう、シルフィー」
《ううん、いいの。アリシアのおかげでわたしたちが暮らせるのだもの。それに、今も他のひとのために頑張っているんでしょ?》
「別に、あたしは大したことしてないよ…あと少しだから頑張るね」

妖精の応援を受けて、より一層頑張ろうと気合いを入れる。けど、シルフィーから悲鳴のような声が上がった。

《アリシア、危ない!逃げて!!》

ハッ、と頭を上げると、頭上の突き出した岩がひび割れ崩れ落ちてくる。急いで横へ移動するためくぼみに手を入れたけど、間に合わない!?

岩の影が、わたしの視界を覆った。

< 7 / 267 >

この作品をシェア

pagetop