カマイユ~再会で彩る、初恋
呼び出し


「本当にここでいいのか?」
「あ、はい」

矢吹先生と横浜のレストランで食事をして、品川駅近くまで戻って来た。
先生は『自宅まで送る』と言ってくれたけれど、先生の自宅みたいにお洒落なマンションじゃないから、ちょっと恥ずかしくて……。

最大手の航空会社に就職したとはいえ、年収五百万円ほど。
短大卒のOLに比べたら貰えている方かもしれないけれど、職場から乗り換えなしの品川駅周辺の賃貸は結構高い。
美容や服にそれほどお金をかけている方ではないけれど、贅沢に遊んで暮らせるほど余裕はない。

「ありがとうございました」
「結構いい時間なんだから、家の前まで送ってくのに」
「……すぐ近いので本当に大丈夫です」
「ホントに送ってくのに…」

『夜道は危ないから』と、来る途中に何度も言い合いして……。
女性として扱ってくれることが何よりも嬉しい。
表情筋をもっと鍛えないとならないくらい、今私……ちゃんと微笑んでいられてるだろうか。

助手席から降りて、窓ガラス越しにぺこりとお辞儀をすると、ウィーンと窓が下げられた。

「来月の休み、分かったら連絡して」
「へ?」
「次は中華にでもしような」
「……はいっ」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさいっ」

ゆっくりと走り去る先生の車を見送る。
自分の服から仄かに先生の香水の残り香が鼻腔を掠め、今日の出来事が夢じゃないのだと改めて実感した。

「次……が、あるんだ……」

テールライトが見えなくなるまでじーっと見据えた。
私、本当に先生とデートしちゃった。

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