魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される

魔導公爵の魔法

 ユグドラス邸に戻ってきた頃には、既に日が傾きだそうという時間帯だった。
 セシリアスタは早速、レティシアと共に彼女の部屋へと向かう。
「この辺りでいいか」
 テーブルの側にある広い場所に立ち、呪文を詠唱する。すると、宙に黒い楕円形の渦が出現した。指を鳴らすと、その渦から先程購入した服や靴、帽子が出てくる。床に触れる瞬間、風に乗りながらゆっくりとどんどん落下していった。
「凄い……」
 レティシアとカイラは、呆気に取られながらその光景を見ていた。アティカは特に驚くこともなく見ていたので、セシリアスタのこの光景は当たり前なのだろうか――。そう思っていると、全てのものが出尽くしたのか渦が小さくなっていき、フッと静かに消滅した。
「セシル様、先程のものも魔法なのですか?」
「ああ。空間を歪め、そこに今日購入したものを仕舞っていただけだがな。出すときは風魔法で緩衝材を作ってやれば問題ない」
「古代魔法の無駄遣いですがね……」
 アティカの言葉に、セシリアスタは「使えるものは最大限使うだけだ」と答えた。古代魔法……確か、今は無き魔法だ。数多くの魔法研究者が研究、解読を進めているが、未だ謎の多い魔法。セシリアスタはその魔法も使える天才と謳われている。実際に見て、四大属性どれにも該当しない凄いものだった。
「セシリアスタ様、後は私どもが片付けておきますので」
「わかった。レティシア、行こう」
「はい」
 肩を抱かれ、頭を垂れるアティカとカイラを残し食堂へ向かう。
 昼食の時も思ったが、セシリアスタの食事の量は相当だった。
「気になるか?」
「あ、はい……少し」
 俯き加減でそう言うレティシアに、セシリアスタは「構わない」と告げる。
「魔法を使うと、どうしても食欲が増すんだ」
「となると、クォーク領に来た時も魔法を?」
「グリフォンに加速のエンチャントを少し。往路だけだが、少し負荷をかけてしまった」
 悪いことをしてしまった、と話すセシリアスタに、レティシアは驚きが隠せない。エンチャントとはいえ、一時的なエンチャントではなく長時間もの間、魔法を付与していたことになる。それも二頭のグリフォンの負担にならないよう、細心の注意を払ってだ。流石は魔道公爵と呼ばれるだけはある。
「なんだか申し訳ないです……」
「レティシアが気にすることはない。マーキス辺境伯が来る前にクォーク領を出ておきたかった、それだけだ。だから気にしないで欲しい」
 そう言われても、やはり申し訳ないと感じてしまう――。そうだわ。
「明日、グリフォンの様子をみさせて貰えないでしょうか?」
「構わない。世話係の者に伝えておこう」
 断られるかもと思ったが、セシリアスタは快く承諾してくれた。
「ありがとうございます」
 レティシアはホッと安堵しながら、食べかけのパンを口に含む。程よい甘みが口いっぱいに広がり、その後ほんのりと塩気が広がる味に舌鼓を打ちながら、ゆっくりと咀嚼していく。そんなレティシアを、セシリアスタは愛おしそうに見つめていた。
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