魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される

グリフォン

 部屋で図鑑を眺めていると、扉をノックする音が聞こえた。
「レティシア嬢、いいですか?」
「どうぞ」
 本を閉じ、入ってきたエドワースを出迎える。金のエギュレットが付いた膝丈の黒いコートを羽織ったエドワースの格好は、クォーク邸に来た時と同じ格好だった。
「それが仕事用の格好、というものですか?」
「そうなります。セシリアスタ様は白のロングコートだったでしょう?」
 確かに、セシリアスタは白いロングコートに青と金のエギュレットだった。ロングコートの裾をなびかせ歩くセシリアスタは美しかった。
「さて、行きましょうか」
「は、はいっ」
 ハッと我に返り、レティシアはエドワースの後について行く。セシル様のことを思い出していたなんて、恥ずかしくて誰にも言えないわ――。そう思いながら、レティシアは歩き出した。


 屋敷を出て裏庭に行くと、複数の建物が建っている。その中で一際低い建物に近付くと、二人の青年が待っていた。
「レティシア嬢、こっちの赤髪の方がヴェイン。んで茶髪の方がケイト。グリフォンの世話係です。どっちも迎えに行った時に会ってるんで顔は知ってると思います」
「ええ」
 顔を見たことがあると思ったが、クォーク邸に迎えに来てくれた二人の従者だった。赤髪にオレンジの目のヴェインと、茶髪に水色の目のケイト。レティシアは迎えの件も含め、深々とお辞儀をした。
「レティシアです。先日はありがとうございました」
「そんな、顔を上げてください。我々は任務を遂行したまでですから」
 かけられたヴェインの言葉に、レティシアは顔を上げる。それでも感謝を込めて、笑顔を返した。
「セシリアスタ様から伺っております。グリフォンを見たいとのことですよね」
「はい。状態によっては遠目でも構いません」
 警戒させてはストレスになるだろう。そう思っての発言だったが、そんなレティシアにケイトとヴェインは顔を合わせ笑いあった。
「大丈夫ですよ。それに今日も大人しくしていますから、触ることも出来ると思います」
「本当ですかっ」
 ケイトの言葉に、レティシアは目を輝かせた。見るだけでも十分だというのに、触ることも出来るだなんて――。嬉しい以外の言葉が見つからない。早速、ヴェインとケイト、エドワースと共に厩舎へと足を踏み入れた。
「わあ……」
 厩舎の奥、柵の向こう側に二頭のグリフォンは居た。一頭は大きな翼を折り畳み目を閉じており、もう一頭は翼を広げ羽を嘴で毛繕いしている。レティシア達の気配を察知すると、二頭は柵の方に歩み寄り静かに座り込んだ。
「調教してあるので、噛みつくことはないです」
 そう言いながら、緑の瞳のグリフォンを撫で出すヴェイン。ヴェインに懐いている所を見ると、そちらのグリフォンがヴェインの世話する方なのかもしれない。紫の瞳のグリフォンはケイトに頭突きをしている。
「気性が荒くないのはヴェインの方のアリッサですね。俺の方のヴァネットは元気過ぎるので」
 頭突きを受けながら、ケイトが頭を撫でる。どちらのグリフォンも逞しく、レティシアは更に目を輝かせていた。
「なんなら、どっちも触ってみては?」
「え、いいのですか?」
 エドワースの一言に、レティシアはヴェインとケイトの方を見る。優しく微笑まれ、レティシアは柵に近づいた。
「頭頂部よりも側面の方を撫ででやってください」
「は、はい……」
 そっと手を伸ばし、ヴェインの方のグリフォン、アリッサに触れる。艶やかな羽の心地に、頬が綻んだ。撫でる度に顔を擦り付けられ、愛嬌のある仕草が愛おしい。
「じゃあ、次はヴァネットですね。よく頭突きしてくるんで気を付けてください」
「はい」
 注意を聞きながら、そっともう一頭に手を伸ばすレティシア。首を傾げながら、ズイッと頭を出される。一瞬驚いたが、そのまま手を乗せ撫でてみるとクルクルと喉を鳴らしてくれた。
「かわいい……」
 レティシアの独り言に、見守っていた男三人は笑みを浮かべ合った。グリフォンを可愛いという女性は珍しいからだ。撫で終わると、レティシアは振り返り、三人を見た。
「グリフォン達、昨日の負荷は大丈夫なのでしょうか……?」
「エンチャントですか? セシリアスタ様がかけてるから大丈夫ですよ」
 エドワースの一言に、レティシアは「そうなのですか?」と尋ねる。エドワースはグリフォン達を指差しながら、言葉を続けた。
「セシリアスタ様は魔力の流れを見て負荷がかかってないか見ながらエンチャントかけるんで、そんなにグリフォンには負荷かかってないんですよ」
「そうでしたか……」
 ホッと安堵するレティシア。一日エンチャントで負荷をかけてしまっていたと思っていたので、グリフォン達の具合が心配だったのだ。そんなレティシアを連れて、エドワースは厩舎から出た。
「あの人の魔力探知は相当なんで、そこまで心配しなくても大丈夫ですよ」
「そうなのですか?」
「あの人、変に魔力操作も上手いし……パーティーの時だって、魔道具で瞳は誤魔化してましたけど髪色は魔力操作で変えてたんですよ。声は風属性魔法で弄ってましたし」
 エドワースの一言に、レティシアは驚く。まさか魔力操作で髪色まで変えられるだなんて思ってもいなかった。
「ちなみに、あのパーティーで偽セシリアスタ様をしてたのは自分なんすよ。俺は水と風の二つの属性が使えるんで、その応用で見た目をセシリアスタ様に変えてました。幻惑っていえばわかりやすいかと」
「そうだったのですか」
 まさかの新事実に、更に驚いてしまう。となると、スフィアはエドワースに言い寄っていたことになる。
「この後のご予定は?」
「部屋に戻って、刺しゅうでもしようかと思っています。エドワースさんは?」
「俺はこれから王宮に行って、セシリアスタ様の補佐です」
 部屋の前まで戻り、レティシアは少し残念そうな表情を浮かべる。時間があればセシリアスタのことを色々と聞いてみたいと思っていた分、少しだけ残念だと感じた。そんなレティシアに気付いたのか、エドワースはにっこりと笑顔を向けてきた。
「後でゆっくりセシリアスタ様のことはお話しますよ。学校も同期だったので、その頃の話もついでに聞かせちゃいます」
「本当ですかっ」
 エドワースの一言に、レティシアはエドワースの顔を見上げる。「約束です」と言ったエドワースに、レティシアは笑顔を向けた。
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