この恋の化学反応式
もらったカフェオレを手に立ち尽くしていると、先生が

「それ飲んで落ち着けよ」

と言ってくれたので、お礼を言ってカフェオレを啜った。

「落ち着いたか?」

先生の声に、小さくうなずく。

「すみません、取り乱しちゃって」

「いや、大丈夫だよ」

そして暫く沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは先生だった。

「有川、単刀直入に聞くけど今の志望校は本当に行きたい大学なのか?」

「いえ、、本当はそんなに行きたい訳じゃないです。親に、行くならここら辺の大学じゃない?って言われてそのまま、、学部だって将来役に立つし英語できるからって言われて外国語学部選んだだけで、、」

「そっか」

先生は少し考えてから、私に向き直った。

「有川にとって大学に行く意味は何?」

「いい就職先を見つけることです」

「それって、本当に有川がしたいことか?」

「それは、、、。先生はなんで教師を目指すことにしたんですか?」

「なんで教師を目指すことにしたか、、難しいな、、」

先生は少し悩む素振りを見せてから、答えた。

「ただ単に教えるのが好きだったからかな、、」

拍子抜けするような答えに、私は目を丸くした。

「え、それだけですか?そんなんで、勉強とか頑張れるんですか?」

私は思わずそう言ってしまった。

「うん。それだけだよ。有川は大学を目指すには何か特別な理由がいると考えているのかもしれないけど」

それはそうだ。大学に行くには大金がかかるし、それをせっかく両親が払ってくれると言っているのだから、明確な目標を決めて頑張りたい。

「納得いかないって顔だな。でも本当に大した理由は要らないんだよ。何でもかんでも理由をつけてたら、上手く行かないことがあったとき、その理由や原因ばっかり考えて結果を見つめられないだろ」

先生は優しく微笑んだ。

「努力は目標のためにやるんじゃないんだよ。自分のためにするものなんだ」

その言葉に私はハッとした。胸にあったわだかまりがなくなっていくような気がした。

(いいのかな、大した理由がなくても、、、私、、先生みたいな人になりたい、、)

私も教師を目指してみたい、、!

「先生、私、今やりたいことが決まりました」

私は笑顔でそう言った。

「早速だな。有川の夢が何でも、俺は応援するよ」

先生はまた嬉しそうに笑って、暗くなった窓の外を指指した。

「今日、星が綺麗だな」

「ほんとだ、、、」

空には雲ひとつなくて、星が輝いていた。

教師を目指すこと。先生に言おうか迷ったけどやっぱりやめた。先生に言うにはまだ恥ずかしかったから、、
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