この恋の化学反応式
『有川へ

まずは、急にいなくなって申し訳ない。

バイト続けるって言ったばっかりなのに、って思ったよな。本当にすまない。

元々俺の母親は持病があったんだけど、その母親が倒れたって電話が来たんだ。
すぐに手術をしないといけないって事でさ。

無事に手術は成功したんだけどやっぱり心配で。父親は単身赴任で遠くにいるから、俺が傍にいて元気づけてあげたいんだ。

こんなの、本来なら生徒に話すことじゃないよな。
でもこうでもしないと有川は俺がバイトを辞めた理由を気にして勉強しなさそうだし。
俺の事を何も気にせず受験に集中してほしいって思うから。
あと、途中で有川を捨てて逃げたって思われたくないし、、。

最初は警戒心しかなかったのにいつの間にか他愛ない話まで出来るようになってさ。ぶっちゃけ最初はお金を稼ぐことが目的だったんだけど有川に出会って塾のバイトに行くのがほんとに楽しくなったんだよ。

それに、有川に会って俺は前よりもずっと、教師になりたいって気持ちが強くなった。
教え方を褒めてもらったり、くだらない話をしたり、何より有川の成績が伸びたり。

誰かの成長をこんな間近で見れる職業って、本当に天職だと思う。

有川が俺の事どう思っていたのかは分からないけど、俺は有川に出会えて良かったよ。

有川は俺の1番最初の生徒だな。

それから、最後に。
努力は目標のためにやるんじゃない。自分のためにするものだ。
有川がどんな選択をしても俺はその選択を応援するよ。

また有川に会える日を心から楽しみにしてる』

手紙を読み終えた私の瞳から、涙が溢れ出てくる。

涙で手紙の文字が滲んでいるのが分かる。

「私も、、先生に出会えて良かったです、、」

そう、独り言をつぶやく。

先生と過ごしたこの数週間は宝物で、間違いなく忘れられない思い出だ。

私は机の上に問題集とルーズリーフを広げて問題を解き始めた。

いつかまた先生に会えることを信じて_。
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