手のひらに小さなハートを
 航介とは一年の時に同じクラスになり、ニ年になって別々になった。

 もともと寡黙でおとなしい性格の航介とは話すこともなかったけれど、彼と仲のいい男子と話す機会があったとき、一緒にいた航介ともひと言ふた言話した程度で、ほとんど会話をしたこともなかった。

 背が高いのに目立った雰囲気でもなく、前髪が長いせいでいつも顔はよく見えない。

 なんだか気になって、ふとした瞬間にじっと観察してみると意外とかっこいいことに気がついた。

 それから少し気になる存在ではあったけれど、以前私が友達と話していた時に誰かの視線に気づいて振り返ると、航介と目が合いすぐに視線を逸らされたことがあった。

 見られていることに気づいても変に逸らされると気分がいいものじゃなく、そのあとも何度もそういうことがあると避けられているようにしか思えなくて……あまり近づかないでいた。

 なのに、どうして今さら話しかけてくるんだろうと不思議に思う。

「それ、作っててしんどくないの?」

 椅子の背もたれに頬杖をついて、私と目を合わせないまま航介が口を開いた。

「たくさんは無理だけど作るのは好きだし、しんどくはないかな」

 手芸が好きで何気なく手作りした小さなクマのマスコットを学校鞄に付けていたら、友達が可愛いと褒めてくれたのだ。
 簡単だと言うと作って欲しいと懇願され、家では集中できそうになくて学校で作っていただけ。

「野間って面倒ごと引き受けるタイプだよな」

 その言葉にムッとした。

 けしてイヤイヤ作ってるわけでもないのに私の何を知ってるというのか。
 航介も欲しいとねだったくせに何言ってんだと眉をしかめた。

「べつに面倒じゃないし」
「そこまでして作る意味あんの?」
「じゃあ意味はないから、陣内くんのは作らなくていいよね」

 そう言うと、急にしゅんとする航介。

「ご、ごめん。そういう意味じゃなくて……」

 どういう意味よ、と航介の意図が分からず私はさらに眉をしかめた。
 航介は頬杖をついていた手でガシガシと髪を乱すと、気まずそうに下を向いてひとつ息を吐いた。

「そんな小さいのにすげーなと」
「まぁ好きだから」
「いいと思う」
「ありが、とう」

 さっきまで嫌味なことを言ったのに、今度は急に褒めるとか情緒不安定なんだろうかと思ってしまう。
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