手のひらに小さなハートを
「いたっ」

 会話をしながらよそ見して縫っていたからか、人差し指を刺してしまった。

 指の腹にぷっくりと小さな赤い塊が浮き出てきた。早く拭かなきゃと慌てて鞄の中にあるティッシュを探していると、ギュッと指先に布が当てられた。

「え?」
「とりあえず、これ使って」

 航介が自分のハンカチを押し当て止血してくれている。

「血がついちゃうよ」
「全然いいよ。むしろ使い古しので悪い」
「う、ううん、ありがとう」

 高校生とはいえやっぱり男の子。大きくて少し骨張った手の甲。指も長くて私の手がすっぽり握られてしまう。

 止血してくれてるだけなのに、急にドキドキして手が汗ばんできた。

「陣内くん、もういいよ。止まったはずだし」
「うん」

 恥ずかしさのなか、ぎこちなく自分の鞄から絆創膏を取り出し人差し指に巻いた。

「用意がいいな」
「こういうことしょっちゅうだから」
「ふーん」

 ハンカチには小さな赤い点が丸く染みている。

「ハンカチ洗って返すよ」
「いいよ、これくらい」

 航介は無造作にズボンのポケットにハンカチを突っ込んだ。

「ありがとう……」

 そう言うと不意に絆創膏の貼ってある手を取られ、その指にチュッと口をつけられた。

「なっ、なにするの!?」
「はやく良くなるおまじない」

 ドクドクドク……と一気に胸が波打ち、カァッと顔に熱が上がった。

「だ、大丈夫だよ」

 恥ずかしくて手を離すと、航介は唐突に立ち上がり「じゃ、俺帰るわ」とそそくさと帰っていってしまった。

 私は胸の高鳴りを抑えるように、口づけられた手をギュッと握りしめた。
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