【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜
耳触りの良い言葉を並べても、彼の心に訴えかけることはできない。
シャノンは思案を深める。
どうすれば、ルロウに伝えることができるのだろう。
「それが聖女の性質だろうと、おれにはどうでもいいことだ。そしてよく考えて行動したほうがいい。でないとおまえの首は」
ふと、糸が切れるように。
頭で考えるよりも先に言葉が出てしまっていた。
「聖女、聖女、聖女って……好きで聖女になったわけじゃない! わたしがルロウの浄化をしたいのは、わたしにとって特別なあなたが、苦しんでいるところを見るのがいやだから! 今さら聖女の意志なんてどうでもいいし、むしろ聖女なんてクソ喰らえなんですよっ!!」
まとまりきっていない気持ちが溢れだし、爆発するように発散される。
予想外のあまりルロウはぱちぱちと瞬きを落とし、そしてシャノンも自分の発言に驚いて瞬きを繰り返した。
「あれ、わたし、いま……」
「ふ、ははは。聖女を、クソ喰らえだと? とんでもない、餓鬼、だな……」
「あっ、ルロウ!?」
突然、ルロウは寝台に倒れ込んだ。
彼の体のこわばりが薄れた瞬間、ふつふつと黒い斑点のようなものがルロウの肌に表れ始める。
(毒素が、もう体内に抑えきれないほどになっているんだわ)
血の気が引いた彼の姿に、シャノンは一刻の猶予もないことを悟る。
シャノンは急いでルロウの手を握った。
まぶたを閉じて祈りを込め、体内の魔力の動き、相手の鼓動を読みとって、願うようにささやく。
「――癒しよ、安らぎよ、かの者に祝福を」
教会の聖女であった頃は、疑問なんてなく口にしていた言葉。だけど今は、祝福ほど曖昧で都合の良い言葉はないと思った。
そう思いながらも、シャノンは強く願う。
「ルロウ――」
シャノンは寝台に乗り上げると、彼の額に唇を寄せた。