劣化王子(れっかおうじ)


そのまま体育館の裏まで行き、花壇の前のベンチに腰掛けた。

「エイミーにはね、ちゃんとボーイフレンドがいるんだよ」

「え?」
「オレの友だちでもあるんだけど……すごくかっこよくて、すごく浮気性な男」

スマホのディスプレイを見せられた。

映し出されていたのは、映画俳優のような美男子の頬にキスをしているエイミーの姿。

「逃げてるだけなんだ、オレに」

「逃げてる……?」

ユノはうんとうなずき、スマホをポケットに戻す。

「文化祭もね、本当はふたりで来る予定だったんだよ。けど、アイツは日本に到着するなり、すぐに女の子をナンパして……そのまま行方不明」

「ええっ!? サイテーじゃん、その人……」

「アイツも本命はエイミーなんだけどね……。オレ、これまでもエイミーからは何度も口説かれてるんだ。周作といればわたしは幸せになれる、って。その度に断ってきたけど……」

まっすぐ見つめられる。

「オレが幸せにしたいのは……果歩ちゃんだから」

草木からの虫の声、体育館からのダンスミュージックが、やけに耳につく。

生ぬるい風じゃ、火照った顔を冷ますことも出来なくて。

ユノは何も返せていないわたしをじっと見つめ、そして、視線を地面に落とす。

「果歩ちゃん」

「……ん?」

「ひとつ言ってもいい?」
「……うん」

何を言われるんだろう。

緊張しながら待っていたら、ユノは意を決したかのように力強い目を向けてきた。

「さっき、オレ……ヤキモチやいたよ」

どこか不満げな顔。

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