旦那様は仏様 ~もっとイチャイチャしたいんです~
「だって、本当になかったんだもん……」
「美咲……うーん、これはますます美咲の初心さに手が出せない説が濃厚になってきたな」
「やっぱりそうなのかなー。ねえ、どうしたらいいと思う?」
「自分からいくしかないんじゃん?」
「自分から手繋ぐの?」
「うん。別にそのくらい難しくないでしょ? 幼稚園児だっておてて繋いで歩くじゃん」

 確かに美咲も小さい子供だった頃に、言われるがままに手を繋いだことはある。だが、だからといってそれが好きな人と手を繋ぐことと同じかというとそれは違うだろう。

「幼稚園児とは状況が違うから。やっぱり自分からはハードル高いよ……」
「えー、じゃあ、手繋いで? ってお願いすればいいんじゃない?」
「それも無理……」
「そのくらい頑張りなよ……」
「……だって、下心を持ってるって思われたらなんか恥ずかしい」

 そう、美咲は恥ずかしいのだ。聡一があまりにもそういう空気を出さないから、下心満載の自分が恥ずかしくてたまらない。

「いや、夫婦だからいいじゃん。むしろ下心バンザイでしょう」
「ちょっと、その言い方親父臭いんだけど……」
「初心初心で進めないよりマシでしょう」

 本当にそうだと思う。二十五にもなってまったく情けない限りだ。

「もうしょうがないなー。私が一肌脱いでやるか」

 肩を落とす美咲に千佳がそんなふうに言ってくれる。美咲は藁にも縋る思いで、千佳の手を強く握り「お願いします」と彼女を頼ったのだった。
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