お飾り側妃になりましたが、ヒマなので王宮内でこっそり働きます! ~なのに、いつのまにか冷徹国王の溺愛に捕まりました~
 ふうと、額に流れる汗を拭いながらも感嘆してしまうのは、ここが歴代土の精霊と縁の深いリーフル宮だからだろう。
 このリージェンク・リル・フィール王国では、精霊の血を受け継ぐ人々が暮らしている。太古にいた火・水・土・風・光・闇を司る精霊たちは、ここに住み着いた人間の一族との共存を受け入れ、たくさんの子孫を後世に遺した。
 今でも、その精霊たちの力を受け継いだ人々が暮らしているが、時代が流れるとともに血は薄くなり、現在では意識して血統を保とうとした貴族くらいしか精霊の力が目覚めることはない。大元の精霊は動物に変化できたらしく、高位の貴族になるほど血統に伝わった精霊の力がはっきりと現れる。特にこのリーフル宮は、側妃の中でも最も土の精霊の力に長けた者が住むことを許される宮殿なだけに、正室の后候補のひとりであることも意味している。
 それがメイジーには余計に忌ま忌ましいのだろう。さらに、ぶちっと草を引き抜いた。
「いくら宮廷の有力貴族出身で第一妃様とはいっても! こんな風に性格が悪いから、後宮嫌いと言われる陛下がますますこちらに近寄らなくなるのよ」
 ぷんぷんと小さな声で怒りながら、メイジーがちらりと目だけで示した二階のバルコニーでは、グレイシアが豪華な薔薇の刺繍を施した衣装を身に纏い、草引きをしているオリアナたちの様子をおもしろそうに観察しているではないか。
「まあ、たしかにいい性格だとは思うけれど」
(でも、それにしてはなんだか……)
 そう思ってしまうのは、命じられた草引きの庭がグレイシアに似合いそうな花園ではなく、なぜか畑だからだろうか。
 ひょいっと顔を動かし、手のそばに茂っている葉を見つめた。
(これは藍よね? それにあっちには、綿や(くちなし)の若木も)
 金色の髪に豪華な宝石の飾りをつけ、大輪の花の刺繍を施した服を纏っているグレイシアは、まさに薔薇の如き美しさだ。
(なのに、その庭が花園ではなく畑――――)
 なにかギャップを感じるのは、オリアナだけなのだろうか?
 思わず額に指をあてて考え込む。俯いた前でメイジーはひそひそとオリアナに囁いてきた。

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