初デートのすすめ
会話が一段落して、アイスコーヒーのグラスをまた取って飲む彼の仕草すら、好きだなと思ってしまう。
――常磐君が、ストロー咥えてる。…付き合ってたら、そのうちキスとかしちゃうのかな?あの唇でキスされたら…私、どうなっちゃうんだろう。
想像しただけでドキドキした。漫画を見て知識だけは蓄積できている。でも実践となると…
――経験ないけど、大丈夫かな、私…。変な顔したりしない?角度間違ったりとか…。常磐君の顔が至近距離に来ただけで、私、もう…
「…佐々原さん?」
「あ、は、はいっ!」
慌てて返事をすると、賢斗はフッと柔らかく笑った。
「行きたい雑貨屋さんがあるって言ってたけど、そろそろ行く?」
「あ、うん!行きたい!」
そう言って、残ったアイスコーヒーを一気に飲んだ途端、急にお腹が痛くなってきた。
「ご、ごめん、常盤君。私…ちょっと…」
「どうしたの?」
――トイレ行きたいって言うのがこんなに恥ずかしいなんて!
心配そうに覗き込んでくる賢斗。
ぐるぐるいうお腹の痛みを堪えながら、勇気を振り絞って「わ、私…ちょっとお手洗いに…」となんとか言えた。
「そっか。いいよ、待っとく。」
「ありがと…」
萌は足早にトイレへ向かった。
用事を済ませ、手を洗いながら、鏡に映る自分を見つめる。
――おなか、壊しちゃった…。
――なんか今日、ダメかも、私。
本当はコーヒーが苦手だった。
でも、先に頼んだ賢斗と同じものを勢いで頼んでしまった。
それに、コーヒーの前に食べたパスタも、初デートの高揚感から胸がいっぱいになり過ぎて、食べきれず残してしまった。
――せっかく、常磐君が探してくれたお店だったのになぁ…。
色付きのリップクリームを唇に塗りながら溜息をつく。