例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても
上昇する箱の中で、沙耶は、金持ちはどうしてみんなして上に行きたがるのだろうと、考えていた。

マンションだって上に行けば行くほど値段が上がる。
景色が綺麗だとか、そういう利点があるのかもしれないが、災害等を考えれば、上より下の方が良い気がするのだが。

人は高い所を好む傾向にあるのだろうか――と。

結果として言えば、沙耶はそんなことより、もっと考えるべきことがあったのだが。


「降りますよ。」
「はいっ」


沙耶に先見の明等ある筈もなく。

ただ、廣井の後を付いていく。

「秋元様、廣井様、この度は、ご足労頂き、ありがとうございます。」

エレベーターホールを抜けると、慌てて飛び出してきた若い女性が出迎える。


「下で受け付けにお声を掛けて下されば、お迎えに参りましたのに。」
「いえ……何度も来ているから、申し訳なくて。」
「そんなことありません。――では、こちらへ。」


恐ろしいほどの美人は、どうやら秘書のようだ。

廣井と美女を、沙耶は交互に見て、二人が動き出すのを待ってから、再び歩き出す。


「失礼致します。秋元様と廣井様がご到着されました。」

美人秘書が重役室をノックすると、中から返事らしき声がした。低い声だった為、何と言ったのか、沙耶は聞き取れなかった。

「どうぞ。」

秘書が明けてくれたドアから、廣井が先に入り、沙耶も続く。


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