例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても
秋元家は、沙耶にとって、ずっと敵だった。

秋元家であることは、重荷だった。

憎んでいても、自分の中に流れてしまっている血は、呪いだった。


それでも。

「恥ずかしながら、秋元家の買収についても、私自身……まだ全体が見えてなくて……梟王百貨店についても今日初めて知ったことで、正直、困惑している状態です。」


権威を持つことに対して、自分は余りに無知だった。

石垣や坂月の傍に居て、沙耶は沢山の物を所有するということは、それと同時に、沢山の何かを犠牲にすることだと知った。

それは与えられていた物にしろ、奪い取った物にしろ、平等に、権力を持つ者に下る。

秋元家の一族も、その犠牲を払っていたに違いない。

沙耶にはそれがなかった。

良い意味でも、悪い意味でも、何も持っていなかった。何も持たされていなかった。

そんな自分は世間にとって、会社にとって、ただの、何も知らない小娘に過ぎない。

この三人から、ど素人、と呼ばれて当然の価値しかないのだ。

提案通り、放棄してしまった方が、お互いにとって良いのかもしれない。


しかし――。


「ですが、これは、私との、大事な約束を、守ってくれた人が出した結果なので、そう簡単に手放して良いとは思えません。今この場でお返事する程、軽い件ではないでしょう。」

沙耶は、三人のそれぞれの顔を見ながら、そう言った。


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