例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても


帰り道も、行きと同様静かなもので、互いに殆ど口を利かなかった。

廣井は廣井で、彼なりに何か考えを巡らしているに違いなかったしー若しくは負け戦だと諦めたかー沙耶は沙耶で、物思いに耽ったような顔で、車窓から外を眺めて居た。

漸く沈黙が破られたのは、別れの時だった。


「もう今日は、事務所に戻りませんので、ご自宅までお送りすることも可能ですが。」


廣井がそう言うのを、沙耶は丁重に断った。


「大丈夫です。ここに寄りたい用事もありますから。」


待ち合わせたのと同じ、秋元家の門の前。


「移り住むおつもりはないんですか?」


車を降りた沙耶に、廣井は問いかける。


「そうですね……今は、まだ……」


それ以上は言わずに濁したまま、沙耶はポルシェを見送った。

「夜中でも朝一でも良いので、先方に連絡する前に心決めた時点で連絡くださいね。」

という、去り際の廣井の言葉にも、頷くだけで返して。
< 40 / 75 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop