例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても
帰り道も、行きと同様静かなもので、互いに殆ど口を利かなかった。
廣井は廣井で、彼なりに何か考えを巡らしているに違いなかったしー若しくは負け戦だと諦めたかー沙耶は沙耶で、物思いに耽ったような顔で、車窓から外を眺めて居た。
漸く沈黙が破られたのは、別れの時だった。
「もう今日は、事務所に戻りませんので、ご自宅までお送りすることも可能ですが。」
廣井がそう言うのを、沙耶は丁重に断った。
「大丈夫です。ここに寄りたい用事もありますから。」
待ち合わせたのと同じ、秋元家の門の前。
「移り住むおつもりはないんですか?」
車を降りた沙耶に、廣井は問いかける。
「そうですね……今は、まだ……」
それ以上は言わずに濁したまま、沙耶はポルシェを見送った。
「夜中でも朝一でも良いので、先方に連絡する前に心決めた時点で連絡くださいね。」
という、去り際の廣井の言葉にも、頷くだけで返して。