例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても
「ーーーーーー」
振り返って、沙耶は門と静かに向き合った。
例えば。
父と母と弟と。
あのままここに住み続けていたら。
例えば、父が死んでしまうなんてことがなくて。
父が後継者として秋元家を継いだとして。
祖母も叔母も意地悪なんかじゃなく、沙耶たちを温かく受け容れてくれて。
今、自分には不相応だと思う財産や、会社は、普通で当たり前の存在になっていて。
何一つ苦労もせずに、大学を出て、何かやりたいことをやって、普通に誰かと恋でもして、家庭を持っていただろうか。
そんな、人生になる可能性が、あったんだろうか。
ーーだとしたら。
不意に浮かぶ二つの顔。
石垣にも坂月にも、出逢っていなかったのだろうか。
そしたら、二人は沙耶の存在など知りもせず、互いにそれぞれ違う人と出逢って、普通に会社を継いで過ごしていたのかもしれない。
幼い頃の、あんなままごとのような“約束”なんかに縛られることもなく。
今こうして秋元家の均衡が保たれなくなったのを見て、改めて思う。
果たして、自分との出逢いは、再会は、“正解”だったのだろうか。
あるべきだった誰かの幸せを壊してしまったのでは無いだろうか。