例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても


どこからか、散ってきた、梅の花びらが手の甲に当たり、沙耶ははっと我に帰った。

そしてまだ馴染みのない鍵を、鞄の中から取り出して、鍵穴に挿す。

忘れ物があった訳ではない。

ただなんとなく寄りたくなった。

理由をつけるとするなら、こんな気持ちのままで、家に帰る事が憚られたから、だ。


「なんか……自分、弱……」


昨日来たばかりだというのに、なんで……と、自嘲な笑みを浮かべた時ーー異変に気付く。


ーー開いてる。


門の鍵が、開いている。
今日は廣井と待ち合わせただけで、中には入っていない。



ーーあ、れ?昨日って、、私、確かーーー



記憶が正解に辿り着いたと同時に。


「走って出て行ったままだから、開いてるのは当たり前だろうが。」



不機嫌そうな声も一緒に、降ってきた。


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