例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても
――第一、好きとか、言われてないし。
悶々としつつも、沙耶ははたと思い付く。
『俺がお前を嫌うとは言ってない。』
とは言われた。
――あ、でも……
『今も昔も好きな女から大嫌いと言われてるらしい。』
石垣の友人である、嘉納孝一が、そういえばそんな事を言っていたような気はする。あの時は過去と現在の生活にとらわれ過ぎていて、よく考えていなかったが。
――あれって私の事……で、合ってるよね……たぶん。今も昔も……。いやでもそれじゃぁ、いくらなんでも人として問題ある気がする。人間一人の人をそんなに小さい頃から思い続けられるもの?近くに居る訳でも再会が確実な訳でもないのに、信じられない。
「げぇ!姉ちゃん、このつみれ団子、超甘いけど!塩と砂糖間違ってんじゃねぇ?!」
――あんな前の約束律儀に守ろうなんて。あれ?ていうか、私そういえば、あの時なんて答えたんだっけ。お嫁さんになって、って言われて、私はどうやって答えたんだっけ。
「うわ、この醤油差しに入ってるのってソースじゃん!なんで醤油差しにソース入ってんの?!」
思い出せない。
どうしても、思い出せない。
幼い自分は、なんて答えたんだろう。
――待って。それは関係ない。とにかく今!今の話。石垣とはもう会わないと思ってたのに、こんなことになっちゃって。ああもう、どうしたらいいのよ。
「姉ちゃんってば!!!」
大声で呼ばれて、思考回路がプツンと途絶えた。
箸片手に、顔を上げてみれば、弟の駿が、何故か非常に不機嫌な顔で沙耶を見ていた。
「ん?」
――あれ、さっきまで田舎道を歩いていたのに。
いつの間に、自分は家に来て、食卓を囲んでいたんだろう。
それすら気が付かない程、動転しているのだが、自覚がなかった。