例えばその夕焼けがどれだけ綺麗だとしても

「……そうだ……駿。こないだの、秋元家の話だけどね……今日確認してきた。」


駿の怒りの理由を訊くこともせずに、沙耶が箸を置く。
内容が内容だけに、駿も姉の間違いをぐっと堪えて、口に出すのを止めた。
ついでに箸も止めた。ダメージをこれ以上受けないように、だ。

いつも機敏に動き回っている姉がこんな風な間違いをするのは珍しく、それだけ、今回の件で頭がいっぱいなんだと、弟ながらに感じ取っていた。


「やっぱり、本当だった。鍵も、もらって行ったし。私達が、暮らしてた場所だった。あと色々なものの権利も……」


廣井という弁護士が、沙耶の下を訊ねて来たのは、三日前の事だ。
沙耶が受けた説明では、この一件は全て石垣グループの意向だという。



「で、どうする?今更なんだけど、前の学校、戻る?戻りたいなら……」
「姉ちゃんってさ……」


半ば悄然としながら話す姉の言葉を遮って、駿はずっと引っかかっていたことを訊ねた。


「どっちと付き合ってんの?」
「――は!?」

首をかしげる弟を前に、沙耶は目を丸くして、固まった。


「だからさぁ、坂月さんと、石垣さんと、どっちが姉ちゃんの彼氏?」
「ど、ど、どっちもそんなんじゃない!」

かろうじて、否定すると沙耶はそのまま勢いよく立ち上がる。

「そんなんじゃないなら、どうして、俺らを助けるようなことするんだよ。」

駿には、昔の竹林で起こった出来事は話していない。
沙耶が幼い頃、石垣にも坂月にも出逢っていた、なんて話は、自分だって最近知った位なのだ。


「俺らを助けたって、なんのメリットもないじゃん。姉ちゃんはただの秘書だった訳でしょ?そんなのおかしくない?」
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