魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される2

新たなる問題

 教会に礼拝に訪れるようになって、二週間が経った。必ずカイラとアティカを同伴させるのを条件にされたレティシアだったが、ここは式を上げた王都でも由緒ある教会だ。セシリアスタには安心してほしいと伝えたが、それでもガードは必要だとのことで侍女二人と共に訪れている。
 そして、今日もあの方はいるようだ……。
「あら、レティシア様ではありませんか」
「こんにちは、メルヴィー様」
 水色の腰程まである髪に金の目。メルヴィー・ジェーン伯爵令嬢だ。この教会に礼拝に来た際、初めて会った令嬢だ。彼女もまた、魔力の質を高めるためにと通っているらしい。
「そろそろ、お返事を聞かせてくださいな」
「あの……そもそも私、セシル様と別れる気はないです」
「なっ!?」
 レティシアの言葉に、メルヴィーはあからさまな表情を浮かべる。そう、彼女は知り合って以降、こうして何度もセシリアスタとの離婚を求めているのだ。
「~~~~っ! 私の方が絶対絶対、セシリアスタ様には相応しいのですよ!」
「そう言われましても……」
 後に控えるカイラからの魔力放出に気付いて欲しい。そして、アティカはまたか、といった風な態度だ。どうしたものか――。

 式を挙げてから、こういったことは何度も起きている。自分の方がセシリアスタに相応しいといった手紙が、数十通も来ている。こうして表立ってはっきりと言ってくるのはメルヴィー位だが、それでもセシリアスタの妻の座を狙っているものは今も少なくはない。現に、そう言ったことを目的としているであろうお茶会の招待状も何通も貰っている。
 メルヴィーとは、教会で話しかけられたのが始まりだ。ここの教会は市民も礼拝に訪れることが出来る場所だが、令嬢が一人で来るのは珍しい場所でもある。故に気になって話しかけられたのがきっかけだ。出来ることならば、友達になりたい。それがレティシアの願いだ。だが、メルヴィーはセシリアスタのことが好きだ。今もこうして、離婚の話を持ち出してくるくらいだ。
「もうっ、今日は帰りますわ! 明日も来ますわよね、来ますわよね!?」
「は、はい」
「明日こそ、素敵なお返事を聞かせてくださいよ! 絶対ですからね!」
 そう言い残し、メルヴィーは去って行った。
「もう! お嬢様は別れないって何度もいってるだろうに小娘め~っ」
「カイラ、落ち着いて」
 先程まで魔力を放出していたカイラは、怒りに顔を顰めた。そんなカイラとは対照的に、アティカは溜息を吐く。
「レティシアお嬢様。ここはセシリアスタ様に相談しては如何ですか?」
「それは……」
 そう、セシリアスタに話せば全て簡単に収まる。だが、それではレティシアはセシリアスタに頼り切りになっている気がしてならないのだ。手紙も、他の使用人にお願いして自分に直截渡して欲しいと頼み、セシリアスタには知らせていない。全て断ればいいのだから。だが、何時までも神聖な教会でことを大きくはしたくない。どうしたらいいだろうか――。
「そうだわ。お義姉様に相談してみましょう」
「ディアナ様ですか……それは確かに有りですね」
「屋敷に戻ったら、早速お手紙を書きましょう」
 少しでも何かが変わればいい。そう思いながら、レティシアはユグドラス邸に戻っていった。



「よし、書けたわ。アティカ、これをお願い」
「かしこまりました」
 手紙を手渡し、一息吐く。テーブルの上には、またしても来ている招待状の山がある。領地を管理している伯爵夫人たちとのお茶会は、まだレティシアが若いということもあり遠出は遠慮したいとの申し出を快く聞き入れて貰い、オズワルト伯爵邸で行ってくれている。夫人たちの人柄もあり、とても楽しく過ごさせてもらっている。だが、他の……テーブルの上の手紙からは、そういったものが感じられないのだ。
 手紙にも、少しばかり書き手の魔力が残滓として残る。魔力探知に長けているレティシアは、礼拝での魔力の質を高めているからか、邪な感情をも察知できるようになってしまった。
「どうしましょう。これ以上の招待を断るのも印象を悪くしてしまうし……」
「いえいえ! 端からそういった邪な感情を持っている令嬢たちの元に行く必要はありませんよっ。それに印象が悪くなっても、お嬢様はお嬢様です!」
「私のことはいいの。でもセシル様の印象まで悪くなってしまったら……そこが怖いの」
 レティシア自身は昔から言われ続けてきた分、慣れているしどうということもない。だが、セシリアスタの印象を悪くしてしまうのだけは避けたい。それもディアナに宛てた手紙には書いたが、どう返事を貰えるだろうか――。
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