A Maze of Love 〜縺れた愛〜
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それは、6月のある日曜日だった。
その日は遠方の高校で新人戦があり、大翔は一日、家を留守にした。
マネージャーの凪咲も、もちろん行くはずだった。
けれど、その数日前、体育の時間に足を捻挫してしまい、その日は欠席して家で過ごしていた。
「いってらっしゃい。いい報告、期待して待ってるから」
「ああ」
大翔は凪咲が住む離れによってから、出かけていった。
それを影から見ていた人物がいた。
大翔の兄の一馬だ。
一馬は数日前から、大翔が日曜日に家を留守にすることを知っていた。
そして、この機会に乗じて、凪咲を手に入れようと画策していた。
一馬の目的はただひとつ。
大翔の苦しむ顔が見たいということ。
昨日の夕方、明日試合があると知った一馬は、凪咲の母親を自室に呼び出した。
「私は凪咲さんが好きなんです。彼女が高校を卒業したら、ぜひ妻に迎えたいと思っているのですが」
「まあ、娘を、ですか」
一馬は頷き、悠然と微笑んだ。
そのとき、一馬は23歳。
大学を卒業し、父親の会社に入社したばかりだった。
その若さに似合わない落ち着きはらった態度、そして思わず目を放せなくなる整った容姿。
将来がとても有望な青年だと、凪咲の母の眼に映った。