A Maze of Love 〜縺れた愛〜
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戻らずに、行くつもりだった。
けれど、保険証やパスポートなど、どうしても持ち出さなければならないものがあると気づき、とにかく一度、家に立ち寄ることにした。
「どうせ、あの人はまだ帰っていないし」
リビングの引き出しからパスポートや印鑑などを取り出し、家を後にしようと思ったとき、玄関から鍵が開けられる音が聞こえてきた。
廊下を歩く足音が近づいてくる。
一馬だった。
「一馬さん……」
「兄貴、なんで」
一馬はほくそえんだ。
「お前たちの考えそうなことならすべてお見通しだよ」
出張というのは偽りだった。
GPSで彼らの行動を逐一追っていたのだった。
唇に酷薄な笑みを浮かべながら、一馬はふたりに近づいてきた。
一馬は大翔の顎を乱暴につかみ、刺すような眼差しを向けた。
「バカな奴らだ。浮気するならせめて、スマホの電源ぐらい落とせよ」
大翔も負けずに睨み返す。
「浮気じゃない。これまでの間違いを正しただけだ」
その直後、思い切り、頬を張られた。
口のなかが切れて、血の味がする。
「そういうのを〝盗人猛々しい〟って言うのだ」