A Maze of Love 〜縺れた愛〜
 大翔は一馬に歩みよった。

 子供のころ、いつも兄を恐れていた。
 「こっちへ来るな」と蹴飛ばされたり、押し入れに閉じ込められて、つっかえ棒で出られなくされたり。

 兄は母を失ったという鬱屈した感情をすべて、大翔にぶつけていたから。

 でも、今はもう怖くない。
 
「そこに這いつくばって許しを乞え。私の妻に手を出しておいて、まさか、そのままでいられるとは思っていないだろうな。」

 もう一度、高い音を立てて、頬を張られる。
 乱れた前髪の奥から、大翔は一馬をにらみつける。

「謝らない。卑劣な手段で凪咲を手に入れたのはお前のほうだろう」

「なんと言おうと、法律上、正式な夫婦はこっちだ。浮気も許さない。間男には制裁を加える。それが夫の権利だ」

 無駄だと思いつつ、大翔は言った。
「頼む。離婚してくれ。あんたは凪咲を愛していないんだろう。そんな結婚はおかしい」
  
 一馬は目を大きくして、それからぶっとふき出し、それからさもおかしそうに笑い出した。
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