極秘の懐妊なのに、クールな敏腕CEOは激愛本能で絡めとる
「鶏胸肉を茹ですぎてしまったから、サラダにして冷蔵庫に入れてある。夜にでも食べて」
「え」
「それじゃ、俺は帰るよ」
 奏斗はソファの背にかけていたジャケットを羽織った。
「あ、はい。本当にありがとうございました」
 二葉が礼を言うと、奏斗は二葉に向き直った。真顔になって二葉をじぃっと見る。
 まっすぐな眼差しに見つめられて、二葉の心臓がトクンと音を立てた。
(奏斗さんに……赤ちゃんができたって言うなら……今しかない)
 ふとそんな気持ちが湧いた。
「あの、奏斗さん」
 奏斗は無言で、でも続きを促すように少し首を傾げた。
 誠実さの感じられる端整な顔立ちだ。
 それだけでなく、彼は日本有数の大企業の御曹司で、大きなプロジェクトを遂行する企業のCEOで……。
「……っ」
 どう考えても、何度考えても、なにも持っていない二葉は、彼にとってお荷物にしかなりえない。
 二葉はルームワンピースの生地をギュッと握った。
「……絵、大切にしますね」
 奏斗は唇を引き結んでこくりと頷いた。ゆっくりと背を向けて廊下を進む。
 奏斗は靴を履いて二葉に向き直った。
「さようなら」
 低い声で別れを告げられ、二葉は視線を落とす。
「……さようなら」
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