ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
しばらく、馬車の中に沈黙が落ちた。
皇子は不服そうに眉根を寄せて、側近は困ったように眉尻を下げている。
ふっと、ユリウスが息を吐いた。
「……悪い。大使には最大級の埋め合わせを用意してくれ。仮に望むなら、俺の名で本国の中枢にねじ込んでも構わん」
「はいぃっ!?」
リチャードは目を剥く。主の無茶な発言に、開いた口が塞がらなかった。
従者が硬直しているうちに、皇子は走行中の馬車の扉を開けた。
そして、
「じゃ、あとは頼んだぞ」
勢いよく馬車から飛び降りた。
「でんっ――!?」
リチャードがはっと我に返ったときは、ご主人様は既に小さくなっていた。
ユリウスは受け身を取って転がり落ちる。そして、すぐさま起き上がった。
(待ってろ……クロエ……!)
妙な胸騒ぎがした。クロエに、なにか大変なことが起こりそうな気がする。
早く……早く彼女を捕まえなければ。
でないと、そのまま彼女が遠くへ行ってしまいそうだったから。
雑然とした不安が強く胸を突いた。