ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

7 嘘をつかれました

(なにを言っているの、この子は……!)

 クロエは目を剥いて、固く握りしめた拳を震わせていた。むせ返るような激しい怒りが、彼女の胸にぼっと火を灯す。
 盗んだのはコートニーなのに。無断で人の部屋に入って、勝手に持って行ったのは異母妹なのに。

(それを……さも平然と嘘をついて…………)

 爆ぜそうな激情をクロエは胸の中にぐっと押し込む。そして漏れて来ないように唇を噛んで蓋をした。

(そうよ、侯爵令嬢が無闇に取り乱してはいけないわ。私の口からきちんと真実を伝えなければ……)

 クロエは気を取り直して顔を上げる。そして決然とした様相で婚約者を見た。
 こういうことは早く誤解を解いたほうがいい。時間がたつにつれて、掛け違えた糸は複雑に絡まっていくものだから。

「違うの、スコット。これには事情があるの。だから私の話を――」

「まぁまぁ! あなたがクロエの婚約者の公爵令息様?」
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