ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

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 そしてついに建国祭の日がやって来た。

 幸いにも、この日までに国王からの処分は下されなかった。
 クロエが聞いた噂によると、王はクリスとコートニーを見つけ出すのが先決だと考えているらしかった。
 本来は、二人の処刑を建国祭に合わせて大々的に行う予定だったらしいが、それが叶わずに憤慨していたようだ。

 あの母娘は、今もレイン伯爵令息の屋敷の地下にいる。
 意識があるのに肉体は動かなくて、伯爵令息とお仲間たちに使い捨ての玩具にされて、きっと今頃は気がおかしくなっているに違いない。

 もっとも、あの大量の虫を浴びた瞬間に、既にもう精神がどこかへ飛んで行ってしまった可能性は高いが……。

 クロエは父への復讐が完了したら、秘密裏に王家に情報提供しようかとふと考えた。
 あの二人が公的に裁かれるのを見るのも悪くない。

 それに、レイン伯爵令息から「聖女も闇魔法を使う」と誤解されているままだ。
 彼とは、お互いに信頼関係なんて微塵もないので、いつあちらから告発されるか分からない。その前に始末をしておいたほうが良いかもしれない。




 貴族たちの目は冷ややかだった。「どの面下げて参加しに来たのだ」と、彼らの視線は語っていた。
 あんなにクロエのことを慕っていた令嬢たちも今では他人の振りだ。馬車で神殿へ向かう際は、平民たちも棺を見送るような態度だった。

「これも、今日までた」と、父は自身に言い聞かせるように呟く。

「そうですね」と、クロエは静かに答えた。

 父子は、四面楚歌の中、緊張した面持ちで神殿へと足を踏み入れたのだった。

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