ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜


◆◆◆




 パリステラ家は静寂に包まれていた。
 あんなに大勢いた使用人たちは一人もいなくなって、今では時おり王家の使いの者が出入りするくらいだった。

 家門は消滅したので、これまでパリステラ家が所有してい財産の全てが王家のものとなる。
 ただし、クロエの私物は今も彼女の所有物で構わないと国王が慈悲を与えてくれた。

 彼女は今、引っ越しの準備に取り掛かっていた。……といっても、帝国へ持ってくものをただ選別しているだけだが。


 国王は約束通り王命を出して、クロエとユリウスの婚約が正式に決定した。
 彼女は、王弟であるウェスト公爵家に養子に入り、クロエ・ウェスト公爵令嬢として皇室に輿入れすることとなった。

 聖女が無事に呪われたパリステラ家から切り離され、更には帝国の皇子と婚約したことは、貴族からも平民からも祝福された。

 特に平民たちの喜びようは凄まじいものがあった。
 王都では、婚約を記念したパンや絵皿などが販売されて、ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。

 パリステラ家は歴史上最悪の家門になってしまったが、聖女・クロエだけは奇跡的に救われたのだ。
 それは、彼女だけは信仰にあつく、そして我欲を捨てて善行を積んだからだと、平民たちの間で寓話のように語られていた。

 一方で、貴族たちも、パリステラ家が窮地に陥ったときはあれほどクロエを冷遇していたのに、公爵令嬢となった彼女に対して、大いに持て囃していたのだった。

 そんな様子をクロエは他人事のように見ていた。

 彼女は、粛々と帝国へ向かう準備を進める。
 これは王命だ……仕方ない。
 名に背くのは、即ち反逆罪。だから、差し当たりは唯々諾々と従う素振りを見せるしかないだろう。

 あと少し待てば、再び時間は動き始めるのだから。

< 424 / 447 >

この作品をシェア

pagetop