ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜






(あと少し……あと少しだ!)

 ユリウスは体内のありったけの魔力を右手に集中させていた。これさえ動けば、懐に忍ばせてある指輪が手に取れる。

 それは、アストラ家の末裔である母から譲り受けた魔石の指輪だ。
 その中には、代々受け継いだ膨大な魔力が内包されてある。その力を利用すれば、この魔法は解けるはずだ。

 彼は母親から「大切な人を守るときが来たら使いなさい」と、この指輪を託された。
「では、母上をお守りするときが来たら存分に使いますね」と彼は答えたが、母は「いつかきっと、あなたの本当に愛する人のために使う日が来るわ」と、苦笑いをしていた。

 幼い彼にはその意味がよく分からなかったが、今なら理解できる。
 この力は、クロエだけのために使うのだ。

(クソッ……! 間に合ってくれっ……!!)

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